精子から見た不妊治療
妊娠・育児・性の悩み
「妻を妊娠させる力」の新指標「実効精子」とは?
これまで、精液の精子濃度(1ミリリットル中の精子数)と運動率(運動している精子の割合)を観察することは、造精機能を知る第一歩とされてきました。しかし、精液の観察には三つの問題点があります。
良い指標ではない精子濃度が、なぜ重視された?
まず、精子濃度です。マスターベーション時の興奮の度合いにより、精のう、前立腺などからの分泌液の量は増減します。これらがたくさん出るほど、精巣上体から押し出された精子は薄まってしまいますので、精子濃度は良い指標ではありません。なぜ、このように問題がある指標が使われるようになったのでしょう。謎解きは70年前に遡らなくてはなりません。
昭和20年代前半、日本でも精液を子宮内に注入する人工授精の臨床応用が開始されました。昭和50年代半ばまでは単純に、射精した精液の一部(0.2~0.5ミリリットル程度)を子宮内に注入するだけでした。なぜ、精液全部を注入できなかったかというと、精液内にはプロスタグランジンと呼ばれる子宮に強い刺激を与える物質が含まれており、この量が限界だったのです。注入できる量が決まっていたため、その中に何匹の精子がいるか、すなわち精子濃度が指標として重要だった、というのが謎解きの答えです。
当時、慶応大学病院内の家族計画相談所(不妊外来)にはたくさんの人工授精台が並んでおり、端から担当医が精液を子宮に注入していきました。数分すると、患者が順番に苦痛のうめき声をあげていきます。妊娠するためには、痛みに耐えることが最初の試練だったのです。
目に見えない機能異常や消費期限も問題
そして、2番目の問題点は、見た目の良い精子にも様々な機能異常が潜んでいることです。私たちは、これを「隠れ造精機能障害」と呼んでおり、この連載のメインテーマです。
3番目は精子の消費期限です。せっかくうまくできた精子でも、射精を待つ間に老化が進んでいきます。細胞膜に傷がつき、DNAに傷がつき、運動性を失うことが、精子の「老化3点セット」であることがわかりました。
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