精子から見た不妊治療
医療・健康・介護のコラム
数十年にわたる「精子を増やす薬」探しは、なぜ失敗したのか
これまで数十年間、私たちも含めて、製薬会社もクリニックも必死で精子を増やすお薬を探してきました。しかし、何ひとつうまくいきませんでした。
様々な薬やサプリを試したが…
慶応大学病院の家族計画相談所では昭和40年代半ばから、患者の夫にビタミン剤、血行をよくする酵素、アルギニン、亜鉛など、思いつく限り様々なお薬やサプリメントを飲んでいただき、人工授精を行う際に精子が増えたか、減ったかを観察しました。その結果、どの薬、サプリメントでも、精子の状態が比較的良い方は精子数が少し増え、状態が悪い方は変わらないという、はっきりしない傾向が続きました。
ある時、貧血に効くビタミン剤が精巣における精子形成を活発にするのではないかと考え、二重盲検法という正式な臨床トライアルを行いました。この方法は、本物のお薬と、外見がそっくりな偽の薬(中身はでんぷん)という2種類の錠剤を用意します。トライアルに参加する患者にも医師にもわからないようにして、半年間、どちらかのお薬を毎日飲んでいただき、人工授精のたびに精子が増えたか観察しました。
マスターベーションの慣れが精子数を左右していた!
半年後、レフェリーが本物、偽物の割り振りを明らかにして、治療効果を判定します。そして、驚がくの結果がでました。本物の薬も偽の薬も同じように精子が少しずつ増えていったのです。そして、増え方は今まで試した薬と同じような傾向でした。
謎が解けました。その当時、採精室などというものはなく、患者には男子トイレの個室でマスターベーションをお願いしました。みなさん、だんだん慣れて、たくさん精子が出せるようになっただけであり、貧血に効くビタミン剤に精子を増やす効果はありませんでした。この研究の唯一の成果は、マスターベーションの練習が大事であることがわかったことでした。
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