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中川恵一「がんの話をしよう」

医療・健康・介護のコラム

がんにはびこる迷信

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全国がん登録データ分析から

がんにはびこる迷信

 現在、すべてのがん患者の医療データは各病院から都道府県に集められ、最終的には国が管理します。私がかかった 膀胱(ぼうこう) がんの情報も、東大病院→東京都→国の順で登録されているはずです。

 このがん患者の全数登録(全国がん登録)を使った2017年時点のデータの分析では、男性が一生涯に何らかのがんに 罹患(りかん) する確率は65.5%、女性は50.2%です。この「生涯累積がん罹患リスク」は高齢化に伴って上昇傾向にありますので、今や日本男性の3人に2人が、がんになる時代と言えます。しかし、日本人のがんについての知識はおそまつで、「迷信」がはびこっています。

「焦げを食べるとがんになる」疫学データはない

 「うちはがん家系だから心配」などと言う人がありますが、遺伝性のがんは全体の5%程度と例外的です。

 また、昔から、焼き魚などの「焦げ」を心配される方も多いようです。内閣府が平成21年に公表した「がん対策に関する世論調査」では、がんを予防するために日本人が実践している生活上の注意点のトップは「焦げた部分は避ける」(43.4%)で、「たばこは吸わない」(42.7%)を上回っています。

 しかし、焦げだけを毎日トン単位で食べ続けないかぎりは、がんが増えることは、まずありません。焦げから抽出した化学物質で大腸菌に突然変異が発生したという実験データが大きく新聞で報道されたことから生まれた迷信で、焦げを多く食べる人にがんが出来やすいという疫学データは存在しません。

日焼けも気にする必要なし

 日本人の場合、白人と違って、日焼けによる皮膚がんも気にする必要はありません。むしろ、適度に日光を浴びることでビタミンDが活性化されて骨が強くなるだけでなく、「活性型ビタミンD」はがんを予防する効果もあります。日照時間の少ない北国にがんが多い理由の一つと考えられます。実際、日本でがん死亡が多いのは、青森、秋田、北海道と北国ばかりです。

 以前、コーヒーは 膵臓(すいぞう) がんなどを増やすと言われていましたが、現在、肝臓がんなどに対して予防効果を持つことが確実視されています。サプリメントは、がんを増やすこともありますから要注意ですし、日本で人気のPET(陽電子放射断層撮影)検診は欧米ではほとんど行われていません。

 そもそも、日本人の医療被ばく量は年間約4ミリシーベルトで世界1位です。世界のCT(コンピューター断層撮影法)機器の3分の1が日本にあることが主因です。むしろ、大腸がんに対する検便といったエビデンスのあるがん検診を受けるべきですが、日本人の受診率は欧米の半分以下にとどまります。

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中川 恵一(なかがわ・けいいち)

 東京大学大学院医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。
 1985年、東京大学医学部医学科卒業後、同学部放射線医学教室入局。スイスPaul Sherrer Instituteへ客員研究員として留学後、社会保険中央総合病院(当時)放射線科、東京大学医学部放射線医学教室助手、専任講師、准教授を経て、現職。2003~14年、同医学部附属病院緩和ケア診療部長を兼任。患者・一般向けの啓発活動も行い、福島第一原発の事故後は、飯舘村など福島支援も行っている。

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