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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

医療・健康・介護のコラム

実は犬派だった80代男性 元野良猫2匹と入居できたワケは?

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猫の「お母さん」を抱く太田さん

猫の「お母さん」を抱く太田さん

 先月、ホームで暮らしていた猫の「お母さん」が亡くなりました。享年19歳。人間なら100歳に相当します。大往生と言えるでしょう。

 お母さんと飼い主さんである入居者様の太田大吉さん(仮名、80代)の事例は、まさに高齢者のペット問題の典型事例と言えるものでした。

犬を飼うのをあきらめた

 実は、太田さんは猫派ではなく犬派で、長年、犬を飼い続けていたそうです。しかし、70歳代になり、だんだん体力が衰えてきたのに加え、奥様に先立たれてしまったのを機に、犬を飼うのをあきらめます。その時の愛犬を最後にして、「次の犬を迎えるのは無理だ」と判断したのです。

 高齢者が、ペットを飼うのをあきらめることは多いです。高齢者のペット事情の一つと言えるでしょう。

 「今から犬を迎えたら、きちんと世話できないかもしれない。自分に何かあったら犬を不幸な目にあわせてしまう。だから犬を飼うのをあきらめよう」。太田さんは、そう決心したのですが、実際に一人きりの生活が始まると、大変な寂しさを感じました。太田さんは子供の頃からずっと犬を飼い続けていたので、ペットがいない生活は初めてだったのです。奥様に先立たれているので、その寂しさは何倍にもなったことでしょう。

犬よりも手がかからない猫を飼う高齢者が増加

 そこで太田さんは、猫を飼うことを思い立ちます。同じことを考える高齢者は、最近増えています。犬に比べて、猫は飼うのに手がかからないためです。

 一般社団法人ペットフード協会の2018年の調査によると、犬の飼育数は890万3千頭、猫は964万9千頭。かつては圧倒的に犬が多かったのに、17年に逆転したそうです。その理由の一つが、高齢者が犬から猫に切り替えることだと言われています。

 太田さんは、すぐに猫を飼おうと考えたわけではありませんでした。最初は、何となく近所の野良猫をかわいがるようになったのです。餌をくれる太田さんに野良猫たちは懐き、家の庭に集まるようになります。それが「お母さん」と、その子供だろうと太田さんが考えた「ちびちゃん」です。

野良猫2匹を完全室内飼いに

 この時、太田さんがむやみやたらと野良猫を集めて、自宅を猫屋敷にしなかったのは幸いでした。野良猫をきちんと飼うのではなく、半野良のような半端な状態なまま、たくさんの猫が家で暮らすようになる高齢者の猫屋敷も、社会で問題となっています。太田さんはそうはせず、懐いた「お母さん」と「ちびちゃん」を家に入れ、きちんと飼うことにしました。

 この太田さんの行動の背景には、サポートしてくれる人たちのアドバイスがありました。ラッキーなことに、太田さんが暮らしていた地域には、地域猫活動をしているグループがあり、その人たちがサポートしてくれていたのです。

 地域猫活動とは、野良猫に去勢・避妊手術を施してから、再び元の場所に放し、地域全体で猫達の面倒を見て行こう、という活動です。地域全体で面倒を見る猫なので、野良猫ではなく地域猫です。去勢・避妊手術をしているので、それ以上増えることはありません。だから増えすぎた猫が迷惑をかけることもありません。

 地域猫活動グループの人達のアドバイスを受けて、太田さんは「お母さん」と「ちびちゃん」を完全室内飼い(外に出さず、家の中だけで飼うこと)にします。また、猫を飼うのが初めてであり、高齢でもある太田さんを、何かと手助けしてくれました。

 太田さんが入院した時は、グループの人達が交代で訪れ、猫たちの世話をしてくれていました。そして太田さんは入院先の病院から、さくらの里山科に入居したのですが、グループの人たちが「お母さん」をホームに連れてきてくれました。こうして太田さんは愛猫と一緒に同伴入居できたのです。今から5年前のことです。

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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