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医療・健康・介護のコラム

増える在宅作業、長時間の座位姿勢は腰にダメージを

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 新型コロナウイルス感染症がまた拡大したことで、在宅作業などで自宅の机に向かう時間が増え、体を動かす時間が減っている方も多いのではないでしょうか。座って作業することは、思う以上に腰に負担がかかります。腰の痛みがあると、スポーツどころか、程度によっては日常動作ですら苦労するようになります。

 今回は腰椎椎間板ヘルニアのケースです。

 Gさんは、ジムでのウェート、自宅での体幹トレーニングを趣味にしています。仕事はPCを使ったデスクワークが中心で、以前から腰の重い感じがありました。また、年に1回くらい、ひどい腰痛のため動けなくなることがあります。今回、トレーニングで重いバーベルを持ち上げようとした際、腰に激痛が走り、その後は前かがみがつらくなり、日常生活での普通の動きもままならなくなりました。医療機関では腰椎椎間板ヘルニアと診断されました。

ヘルニアは腰だけではない

 ヘルニアとは、「臓器があるべき位置より逸脱した状態」のことで、 鼡径(そけい) ヘルニアや食道 裂孔(れっこう) ヘルニアなど、腰椎椎間板ヘルニア以外でも用いられる言葉です。また椎間板は、 頚椎(けいつい) や胸椎にもあり、頚椎椎間板ヘルニアもよく知られています。

 椎間板は、腰の骨と骨の間にある軟骨組織の一種です。中心部には、保水成分であるプロテオグリカンが豊富な組織「髄核」があり、周囲を 線維輪(せんいりん) と呼ばれる層状の組織が取り巻いています。腰椎椎間板ヘルニアでは、繰り返し加わる負荷で、弱くなった線維輪から、髄核が突出します。これには、年齢的要素や遺伝的要素なども関係します。

増える在宅作業、長時間の座位姿勢は腰にダメージを

 主な症状は腰痛、お尻から 大腿(だいたい) や下腿にかけての痛みやしびれなどです。突出した椎間板による神経への圧迫が強い場合、足の筋力低下や尿や便が出づらくなる症状が表れることもあります。

 また、腰椎椎間板ヘルニアの症状は、前かがみや座っている動作でひどくなることがあります。過去の研究により、立っているよりも、前かがみの姿勢の方が、腰椎椎間板の圧を上昇させることが分かっています。意外なことに、立っているよりも座っている状態の方が腰椎椎間板への内圧は高くなります。診察室にくる患者さんの中には、座るのが辛いために「立ったままでいいですか」と言われる方もいます。

増える在宅作業、長時間の座位姿勢は腰にダメージを

図.姿勢による第3・4椎間板内圧の変化(Nachemson AL, et al. Spine 1976を改変)

 腰椎椎間板ヘルニアの診断は症状や診察所見からも可能ですが、MRI検査像では突出した椎間板を確認することができます。診断がついた場合、突出した椎間板はある程度、自然に退縮することが期待できるため、通常は、まず手術などをしない保存治療が行われます。約7割の患者は、発症から3~6か月以内に症状が軽減すると言われています。痛みがひどい場合は、内服薬で痛みをコントロールすることもあります。

 また、一見、関係ないように思うかもしれませんが、主に太もも後ろ側の筋肉(ハムストリング)の柔軟性が低下すると、前かがみになった時の股関節の運動が制限され、腰椎での運動が増加してしまうなど、腰椎への負担が増えます。適切なストレッチを行うことが大切ですが、特定のエクササイズで腰痛はすべてよくなる、というものではありません。個々の身体に起きている問題を専門家に指摘してもらい、それに応じたリハビリテーションを行うことが大切です。
腰痛「前かがみで痛い」と「反らして痛い」は原因が違う…けがをしない体作りのために

 症状が軽快しなかったり、何度も痛みを繰り返したりする場合は、手術も選択肢になります。近年では顕微鏡や内視鏡を用いて行う手術が主流であり、昔に比べるとスポーツ復帰も早くなったと言えるでしょう。しかし、手術で突出した椎間板を摘出しても、残っている椎間板が再び突出する可能性があります。手術を行った場合でも、術後のリハビリテーションが再発予防に重要です。

 それでは、Gさんの経過です。

 医療機関でもらった消炎鎮痛剤を毎食後、内服することにしました。また、仕事で長時間の座位が続かないよう、時々立って動いたり、軽くストレッチをしたり、姿勢を適宜変えるようにしました。腰痛が段階的に改善していくと、今度はストレッチや腹圧のコントロールなど、理学療法士の元でリハビリテーションを開始しました。1か月後、日常生ではほぼ問題なく過ごせていますが、バーベルを持ち上げるような動きは当面しない方針です。

痛みを出さないようコンディションを維持することが大切

 いったん腰痛が出てしまうと、治すのは大変です。可能であれば、普段から腰痛が起こりにくい体作りをしておくことが大切です。長時間の同じ姿勢を避けたり、定期的なストレッチを心掛けるとよいでしょう。

 また、重いものを地面から持ち上げる時は、膝をしっかり曲げて行わないと、椎間板に負荷がかかります。その結果、ひどい腰痛が生じることもあるので注意しましょう。

 成長期のスポーツ選手に腰痛が生じた場合、腰椎の疲労骨折である腰椎分離症の可能性も多々ありますので、長引く前に医療機関を訪れて下さい。
成長期の腰痛は疲労骨折かも!? ―腰椎分離症― )(大関信武 整形外科医)

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 本文のイラストや写真の一部は、「スポーツ医学検定公式テキスト」(東洋館出版社)より引用しています。スポーツ医学検定応援キャラクター・ハッスルスポケンの LINEスタンプ がリリースされました。

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大関 信武(おおぜき のぶたけ)

 整形外科専門医・博士(医学)、読売巨人軍チームドクター、日本スポーツ医学検定機構代表理事、日本スポーツ協会公認スポーツドクター

 1976年大阪府生まれ、2002年滋賀医科大学卒業、14年横浜市立大学大学院修了。15年より東京医科歯科大学勤務。野球、空手、ラグビーを経験。スポーツ指導者などへのスポーツ医学知識の普及を目指して「スポーツ医学検定」(春、秋)を運営している。東京2020オリンピック・パラリンピックでは選手村総合診療所整形外科ドクター。

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