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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

術後化学療法を終えましたが、再発が不安です。何かできることはないでしょうか

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治ったものと考えて、今まで通りの生活を

 私の回答はこうです。

 現時点で最善と考えられる治療をやり遂げたわけですので、さらに何かをしなければ、と思う必要はありません。副作用もつらかったと思いますが、頑張った分、効果は得られているはずです。やるべきことはやったわけですので、基本的に治ったものと考えて、今まで通りの生活を取り戻し、これからの人生を歩んでいくのがいいと思います。

 ちまたでは、再発を防ぐために食事に気をつけるべきとか、サプリメントを摂るべきとか、運動を頑張るべきとか、いろんなことが言われていますが、このコラムでも以前に書いた通り、食事や運動は、がんの再発と結び付けたりはしないで、純粋に楽しむのがよいでしょう。

 この先、再発の可能性はゼロではありませんが、他の病気になる可能性も、交通事故に遭う可能性もゼロではありません。すべての人がそういうリスクの中で生きているわけですが、リスクのことばかりを毎日悶々(もんもん)と考えて過ごしている人はあまり多くありません。がんを患ったからといって、数あるリスクの中で、再発のリスクのことだけを過剰に気にするのは、バランスを欠いているのかもしれません。

再発不安と向き合うための3つのアドバイス

 ただ、このように説明しても、再発の不安というのは、容易には拭い去ることはできません。人間というのは、何かを考えないようにしようと思えば思うほど、かえって、そのことばかり余計に考えてしまうもので、これは、「シロクマ実験」と呼ばれる心理学の有名な実験でも証明されています。

 がん研有明病院で、いつも相談に乗ってくれる腫瘍精神科部長の清水研先生は、再発の不安と向き合うために、次の3つをアドバイスしています(※)。

 ①自分の努力で避けられないことはそのまま受け止める

 ②過度に見積もりがちなリスクを正確に知る

 ③不安が強くなる状況や、やわらぐ状況を客観視する

 ①は、やるべきことをやったあとは、考えすぎずに、「天命を待つ」ということです。治療からの「卒業」は、気持ちに整理をつけるよい機会なのかもしれません。

 ②は、再発率などの情報をある程度知った上で、それを冷静に客観視して、過剰に考えすぎないということです。前述の通り、がんの種類や状況によって、再発率は様々ですので、担当医ときちんと話し合うことも重要です。

 ③は、不安が増すときの行動や、不安がまぎれるときの行動を知るということで、「不安日記」をつけるという方法もあるようです。不安がまぎれるような行動を増やすのも有効ですし、不安が増すときも、その原因を客観視できれば、うまくやり過ごせるかもしれません。

 「腰が痛くなった」とか、「皮膚に湿疹が出た」とか、誰にでも起きるようなちょっとした症状を、再発の兆候ではないか、と考えてしまう方も多くおられます。でも、そのような症状のほとんどは再発とは関係ありません。がんと関係ないとわかれば、あまり気にならない程度の症状は気にせず放っておいて大丈夫です。生きている以上、毎日、ちょっとした体調の変化はあって当然です。もし、どうしても気になってしまうようであれば、担当医に相談して、安心のために検査してみてもよいかもしれません。

 また、どうしても、不安が強くて悶々としているというような方には、抗不安薬などのお薬が有効なこともあります。いろんな方法がありますので、担当医や医療スタッフにご相談ください。

再発することは絶望ではない

 そしてもう一つ、お伝えしたいことがあります。「再発することは絶望ではない」ということです。

 再発しないようにできる限りのことをする、という説明のもと、頑張って治療を受けてきたわけですので、多くの患者さんは、「再発は何としても避けるべきもの」「再発したら絶望」というイメージを抱いています。そんなイメージを持ちながら実際に再発した場合のショックは、相当なものとなります。

 でも、再発した後にも、できることはたくさんあります。むしろ、そのために、医療があるといっても過言ではありません。遠隔転移があるということは、そこからがんをゼロにすること(根治)を目指すのは難しいわけですが、「がんとうまく長くつきあう」ことを目指して、様々な治療やケアを行っていくことになります。再発しないに越したことはありませんが、再発したとしても、「自分らしく生きる」という目標に何ら変わりはありません。

 根治が難しい進行がんとの向き合い方は、とても重要なテーマですので、今後、このコラムでも、じっくりと取り上げていくつもりです。

※ 清水研「がんで不安なあなたに読んでほしい。 自分らしく生きるためのQ&A」 (ビジネス社、2020年)

(高野利実 がん研有明病院乳腺内科部長)

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大付属病院で研修後、2000年より東京共済病院呼吸器科医員、02年より国立がんセンター中央病院内科レジデントとして経験を積んだ。05年に東京共済病院に戻り、「腫瘍内科」を開設。08年、帝京大学医学部付属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に最年少部長として赴任し、「日本一の腫瘍内科」を目標に掲げた。10年間の虎の門時代は、様々ながんの薬物療法と緩和ケアを行い、幅広く臨床研究に取り組むとともに、多くの若手腫瘍内科医を育成した。20年には、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、かつてのヨミドクターの連載「がんと向き合う ~腫瘍内科医・高野利実の診察室~」をまとめた、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)がある。

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