ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
癒やし猫(中)「トラは私の弟なの」重度認知症の女性 猫と暮らして穏やかに
トラをなでると幸福感 外には出たがらず
トラをなでている時の角田さんの心も、幼いころに戻っていたのに違いありません。しかし、幸せそうにトラをなでていて、外には出たがりませんでした。おそらく、幸福な気持ちなので、外に出たいと言う感情が起きなかったのでしょう。
「トラはね、夜はいつも私のベッドに入ってくるの。そうすると息子が怒るのよ。何で僕のところに来ないんだって」
これも、角田さんがよく話してくれたことです。やはりトラをなでながら、とっても幸せそうな表情で話していました。この時、角田さんの心は、息子さんが幼かった頃に戻っていたに違いありません。こういう時も、角田さんは決して外に出ようとはしませんでした。
自分自身の子供時代と、幼い子供を育てていた時代。これは多くの人にとって、人生で最も穏やかで、幸せだった時代ですよね。認知症のため、昔の良き時代の気持ちに戻っているとしたら、それは幸せなことかもしれません。
心が昔にタイムスリップしても、いつもトラが一緒
角田さんを幸せな昔に導いてくれたのはトラです。自分が幼かった頃の気持ちに戻っても、子育てしていた頃の気持ちになっても、トラを認識していました。過去に心がタイムスリップしても、いつもトラが一緒だったのです。
トラのおかげで、角田さんの生活は穏やかで幸せなものになりました。ホームではいつもにニコニコしており、息子さんは「一緒に暮らしていた時と比べて、別人のようだ」と感嘆していました。角田さんは、さくらの里で4年間、トラをはじめとする猫たちと幸せに暮らして、旅立ちました。もちろん、旅立ちの瞬間、その枕元にはトラがいて、角田さんを看取りました。
これまでご紹介してきたエピソードと異なり、角田さんとトラのエピソードにはドラマチックな内容はありません。何事もなく、穏やかに猫と一緒に暮らしただけです。そんな普通の日常を角田さんに提供してくれたトラに、私たちは深く感謝しています。(若山三千彦 特別養護老人ホーム「さくらの里山科」施設長)
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