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性的少数者の苦悩受け止める
LGBT(性的少数者)に関する記事を、目にする機会が増えたと感じる方もいるのではないでしょうか。
ある調査ではLGBTの割合は、ほぼ10人に1人。左利きやAB型の血液型に近い割合と言われますが、家族や知人にも明かせず、生きづらさを抱える人は少なくありません。私は、そうした当事者を取材している一人です。
社会部の記者が取材を始めるきっかけは様々ですが、私の場合は、個人的な体験が影響しています。
20年近く前のことです。学生時代、同じ女子グループで仲良くしていた友人がいました。髪は短くボーイッシュ。人懐っこい性格でしたが、時折、ひどく落ち込んだ姿を見せるようになりました。「自分はダメだ」と独り言を繰り返し、精神的に不安定になっていきました。
心配する私たちにも多くを語りませんでしたが、ある日、こう打ち明けました。
「トランスジェンダーかもしれない」
心と体の性が一致しない人のことで、初めて聞く言葉でした。体は女性なのに「自分は本当は男だ」という意識が強く、その現実に友人は苦悩していたのです。
私には知識もなく、どう接すればいいのか戸惑いました。友人は間もなくグループを離れ、会う機会も減り、疎遠になりました。今は男性として生きていると聞きます。
LGBTとは、レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、そしてトランスジェンダーなどの総称です。最近は、公表する人も少しずつ出てきました。
私も記者になり、当事者を取材する機会がありました。「自分は普通ではない。生きていてはいけないと思った時期もあった」。そんな体験を聞いた時、目に浮かんだのは友人の顔でした。
あの時、死にたいと思うほど苦しみ、勇気を持って打ち明けてくれた。しかし、私は正面から受け止められず、積極的に関わらなかった。そんな態度が、疎外感を感じさせたのではないか。
以来、自問しながらも当事者のことを知ろうと様々な人に会いました。何度も聞いたのは、周囲に悟られないように自らを偽る苦しさです。
6月にはコロナ禍で生活が激変し、不安を抱えるLGBT特有の悩みを記事にしました。大阪府内のレズビアンの女性(40代)は以前、きょうだいにカミングアウト(告白)しましたが、「子どもが学校で差別されたら困るので、外では言わないで」と強く求められたそうです。
「私は何を言われてもいい。でも、家族には1ミリも嫌な思いをさせたくない」。女性は、自分を隠して生きていく覚悟を決めていました。
こうした困難を軽減するには、一人でも多くの人が少数者の存在を理解し、温かく受け入れるメッセージを普段から出すことが必要です。
当事者は、あなたのそばにもいるかもしれません。たとえ小さな一歩でも、救われる誰かがいるはずです。
【今回の担当は】川崎陽子(かわさき・ようこ) 製薬会社で働いた経験があり、今年はコロナ禍の医療機関も取材。2児の子育て中。京都府出身。
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