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精子から見た不妊治療

医療・健康・介護のコラム

亜鉛、アルギニン、コエンザイムQ10…精子サプリの効果は?

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 今回は代表的な「精子サプリ」を取り上げ、その有効性を考えてみます。

亜鉛…通常の食事で欠乏・過剰は心配なし

亜鉛、アルギニン、コエンザイムQ10…精子サプリの効果は?

 亜鉛は、鉄の次に体内に多い微量元素であり、様々な酵素の成分として、DNAやタンパク質の合成、ひいては細胞増殖に不可欠です。前立腺液中の亜鉛濃度は血清の300倍以上であり、亜鉛が欠乏したエサでネズミを飼うと造精機能障害が起きます。このような背景から、亜鉛を摂取することにより精子形成が盛んになる、と考えるようになりました。

 亜鉛を多く含む食品としてカキが有名ですが、通常の食事をしていれば、亜鉛の欠乏、過剰をあまり気にする必要はありません。サプリメント等による亜鉛の過剰摂取は、銅の吸収阻害による銅欠乏(低銅血症)、貧血など様々な健康被害が生じることが知られているため、推奨摂取量は1日10ミリグラム、耐容上限量(過剰摂取による健康障害を未然に防ぐ量)は1日40~45ミリグラムと設定されています。血液検査により亜鉛欠乏症と診断された方以外は、造精機能の改善を目的とした長期摂取はお勧めできません。

 もう少し、微量元素のお話を続けましょう。ヒトの体内にはさまざまな元素が存在しています。このうち亜鉛、ケイ素、フッ素、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、ヒ素、セレン、モリブデン、スズ、ヨウ素、ホウ素は、必要量はほんのわずかですが、不足すると細胞の増殖や活性酸素防御に悪影響があり、必須微量元素と呼ばれています。

精巣は必須微量元素欠乏の影響を受けやすい

 管理栄養士に伺ったお話です。飽食の時代といわれる現代において、カロリー不足による栄養失調(飢餓)は過去のものとなりました。一方、みなさんが気づきにくい必須微量元素の欠乏による「隠れ栄養失調」が問題になっています。必須微量元素の欠乏は全身の細胞に影響しますが、細胞増殖(精子形成)が盛んな精巣は、とくにその影響を受けやすい可能性があります。

 私たち精子研究チームの片山 (まさ)(とき) (明治薬科大学准教授、分析学)は生体成分の分析が専門であり、特殊な機器を使って精液には70種以上の元素が含まれており、必須微量元素の量は個人差が大きいことを明らかにしました。片山は、亜鉛のみに着目するのではなく、すべての必須微量元素を一括測定して、隠れ栄養失調を把握することを提唱しています。

 再び、管理栄養士の話です。必須微量元素の多くは有毒であり、少しの過剰が中毒に結びつく危険性があります。危険分散の視点から、多種の食品をまんべんなく食べる(偏食を避ける)という生活習慣が、一番安全かつ簡単な摂取法になるとのことです。

アルギニン…体内で過不足なく造られる

 みなさんが生きていくには、日々、お肉や穀物、野菜などを食べ、タンパク質(アミノ酸)、糖、脂肪、ビタミン、微量金属などをバランス良く摂取する必要があります。精子を増やすサプリメントのうち、最もご質問が多いのが、アミノ酸の一種であるアルギニンです。

 タンパク質は、20種類のアミノ酸が様々な組み合わせで鎖状につながったものです。夕食に焼き肉を食べると、タンパク質は消化されてバラバラのアミノ酸に戻り、腸で吸収されて体内でタンパク質を造る原料になります。このうち9種類はヒトの体内では造れないので、食物などから摂取する必要があり、必須アミノ酸と呼びます。残りの11種類は体内で造ることができるので、非必須アミノ酸と呼びます。

 細胞内のDNAは、ヒストンというタンパク質と結合して守られています。精子では、成熟の過程でヒストンがプロタミン(約70%のアミノ酸がアルギニンで占められています)というタンパク質に代わります。前回の連載で、ヒト精子頭部を青く染めて、空胞を観察する検査をご紹介しました。この青い色素はプロタミンに結合します。精子にはアルギニンが多いというのは本当ですが、アルギニンをたくさん摂取すれば精子が増えるということはありません。実際には、アルギニンは非必須アミノ酸に分類され、通常の食生活をしていれば体内で過不足なく造られます。

コエンザイムQ10…酸化ストレスは心配無用

 連載3回目で「ミトコンドリアは、ブドウ糖を水と炭酸ガスに分解し、たくさんのエネルギーを作っています。その最終工程で、活性酸素が必要になります」とお話ししました。コエンザイムQ10(Q10)は、水素(H2)と活性酸素(O)から水(H2O)を造る反応を助けます。酸素と反応するので、当然、強力な抗酸化物質でもあります。

 加齢とともに減少することから、抗加齢(アンチエイジング)サプリメントや、抗酸化作用に着目した造精機能改善サプリメントとして利用されています。もともと体内で生成、分解できる物質であり、たくさん摂取しても過剰症の心配は少ないですが、厚生労働省からは1日30ミリグラムを超えないように、との通知が出されています。

 加齢によりQ10が減るのは、必要とするエネルギー(基礎代謝)が減るからであり、自然な現象です。すでにお話ししたように、日常生活で酸化ストレスを気にかける必要はありません。

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兼子 智(かねこ・さとる)
東京理科大大学院、慶應大大学院修了。薬学博士、医学博士。東京歯科大市川総合病院産婦人科非常勤講師


黒田 優佳子(くろだ・ゆかこ)
慶應大医学部卒、同大学院修了。医学博士。「黒田インターナショナル メディカル リプロダクション」院長


萩生田 純(はぎゅうだ・じゅん)
慶應大医学部卒。博士(医学)。東京歯科大市川総合病院泌尿器科講師


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慶應大医学部卒。医学博士。東京歯科大教授,同大市川総合病院副院長、泌尿器科部長、副リプロダクションセンター長


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