ココロブルーに効く話 小山文彦
医療・健康・介護のコラム
【Track8】コロナストレス対応の現場から(下) 孤独、疑心暗鬼…、施設療養中の男性が経験した「拘禁反応」とは
秋から冬へ、寒さと乾燥が強まるなか、新型コロナウイルスの第3波が押し寄せたようです。今年の春先に経験した「人と関わることへの不安」から、次第に「人と関われないストレス」が社会に増大してきました。今は、ウイルス感染だけでなく、孤独と閉塞感までもが 蔓延 しています。感染拡大予防の一環でもある施設療養などの閉鎖的な生活は、人の心にどんな影響を及ぼすのでしょうか。
コロナ陽性で療養施設に入って

会社員のヨシオさん(47)は、ある休日の朝、目覚めた時に 鼻腔 (鼻の奥)がひどく乾いていることに異常を感じました。地元の保健所の相談センターから勧められた医療機関を受診すると、PCR陽性と判明しました。
前夜は、20歳の娘さんと夕食に出かけました。二人とも日頃から人混みや会食等は避け、できる限りのセルフケアには努めていたそうですが、この時は彼女の仕事について、久しぶりにゆっくり語らいました。
幸いなことに、娘さんら、他のご家族には、検査の結果、陽性者はいませんでした。他に強い症状はないことから、ヨシオさんは療養施設(ホテル)へ入ることになりました。
突然のことに驚きながらも、冷静に療養生活への準備を始めました。身辺に必要なものや衣類などは、あえて普段使っているものは持ち込まず、最低限のものだけを新調しました。施設内で使ったものを、再び自宅に持ち帰ることが、何となく 厭 われたからです。
孤独感からネガティブな感情に
療養施設では、毎日午前中にPCR検査があり、検温は1日2回、食事は1日3回ほぼ定時に弁当が配られました。食事の受け取りと検査以外には、室外に出ることは禁じられていました。当初の2日ほどは、ホテルで過ごす静かな時間が意外に新鮮ですらありました。ただ、この単調で自由のない生活に、次第に何とも言えないような寂しさを感じるようになりました。部屋の窓を開けても隣接するビルの壁しか見えません。
家族や知人とは、いつでもスマートフォンで連絡はできるのですが、徐々にその頻度も減ってきました。
「家族に陽性者が出たからといって、バツが悪いなどと思うことではないだろう」と頭ではわかっているものの、「社会復帰した時に、迷惑がられないだろうか?」とか、「新型コロナに感染してしまったことで、自身が弱い人間だと思われたくない」など、ネガティブな思いが強くなってきていました。
体温は上がってきたものの、高くても37度台の後半までの範囲で推移していました。他の療養者の体験談などをネット検索してみると、自身では重症化はないだろうと思いたい反面、これからどうなるか、わからないことへの恐怖感が絶えませんでした。
スマートフォンのテレビ電話で家族と通話していると、画面に映し出される顔に、日頃覚えたことのない愛情が湧き、後ろに見える見慣れたソファや家具には、もう二度と触れることのないような思いがしたのだそうです。
療養生活が経過するにつれて、当初の寂しさから、家族や職場に対する申し訳ない気持ちが募り、次第に自閉的な疎外感を覚えることになったのです。
ホテルへの入所前に会社に状況を連絡した時、充分な療養を勧められ、「必要な時に総務課から連絡する」と言われていました。
しかし、療養4日目まで、何も連絡はありません。別に不思議なことではないはずですが、当時のヨシオさんにとっては、それが疎外感をいっそう募らせることになったようです。
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