新・のぶさんのペイシェント・カフェ 鈴木信行
医療・健康・介護のコラム
今できることを精いっぱい 笑顔で前向きに
ここは、ある下町にあるという架空のカフェ。オーナーののぶさんのいれるコーヒーの香りに誘われ、今日もすてきなゲストが訪れて、話が弾んでいるようだ。(ゲストとの対話を、上下2回に分けてお届けします)

【今月のゲスト】
佐久間勇人(さくま・はやと)さん
1975年生まれ。「脊髄小脳変性症」当事者。特定非営利活動法人 「全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会」( https://scdmsa.tokyo/ )副会長。 徐々に体の機能が失われていく進行性の神経難病であり、「今だからこそ 色々な人と出会いたい。全力で笑いたい。皆でつながり笑いたい」。座右の銘は「HUG&PEACE」。
脊髄小脳変性症の佐久間勇人さん(下)
今日のカフェには、難病の脊髄小脳変性症を発症しつつも、水泳競技で記録を更新している佐久間勇人さんがお越しになっている。
ご注文いただいたコーヒーを、飲みきらずに残しているようだ。コーヒーを入れた私は、なにか問題があったのだろうかと不安になって聞いてみた。
「水分をあまり取れないんですよ」
脚力が弱って立つことが厳しくなり、車いすを使っている彼は、トイレでズボンや下着を脱ぎ着するのがとても大変だという。様々な症状が表れる病気だが、さらに、その症状によって生活面でも制限されることが多いようだ。大型自動車の免許を持ちドライバーとしての仕事をしていたものの、目の焦点が合いにくい眼振という症状が出始めたために、転職を余儀なくされた。そして車の免許も返納したそうだ。
過去の自分と比べるのではなく
「私ね、同じ病気を持った先輩に、いまできることを一生懸命にやった方がいいって言われて、それがいつも頭を巡るんです」
身体障がい者であり、がんを患っている私は、体力の衰えが周囲の方よりも早く、できなくなりつつあることがあると悲観してしまう。しかし、彼は違う発想を持っている。
「できなくなったことを考えて喪失感が増えるより、今できることを精いっぱいがんばった方が、笑顔も増えるじゃないですか」
その通りだ。できていた過去の自分と比べるのは意味がない。いまの自分の体を最大限に生かしていくことが大切というのだ。
「常に楽しさを探していると、笑顔が増え、そして前向きな気持ちを持った似た者が集まってくるようになるんですよね」
楽しそうに、笑顔で、前向きに彼は語る。一つひとつの言葉が私には重い。
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