新・のぶさんのペイシェント・カフェ 鈴木信行
医療・健康・介護のコラム
徐々に弱っていく体 病気が前向き思考にしてくれたその訳は
ここは、ある下町にあるという架空のカフェ。オーナーののぶさんのいれるコーヒーの香りに誘われ、今日もすてきなゲストが訪れて、話が弾んでいるようだ。(ゲストとの対話を、上下2回に分けてお届けします)
【今月のゲスト】
佐久間勇人(さくま・はやと)さん
1975年生まれ。「脊髄小脳変性症」当事者。特定非営利活動法人 「全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会」( https://scdmsa.tokyo/ )副会長。 徐々に体の機能が失われていく進行性の神経難病であり、「今だからこそ 色々な人と出会いたい。全力で笑いたい。皆でつながり笑いたい」。座右の銘は「HUG&PEACE」。
脊髄小脳変性症の佐久間勇人さん(上)
カフェの扉にはめられたガラスを通して、店の外が見える。カウンターで洗いあがったグラスを拭いていると、車いすを使って来店するお客さんの姿がちらりと映った。
あいにく私の店の扉は自動ではない。開けにくいことだろう。手にしていたグラスを置き、扉を内側から開けた。外からは冷たい冬の風が、ほおをかすめていく。
「こんにちは」
扉の向こうにいたのは、佐久間勇人さんだ。器用に車いすを操作し、狭い入り口を通り、テーブル席についた。
「ご無沙汰しています」
彼は、風で乱れた髪を整えながら、笑みを私へ向け、あいさつする。
来店するのは2年ぶりだろうか。彼は、少しずつ身体の機能が弱っていく「脊髄小脳変性症」という病気だ。国の難病指定を受けている病気のひとつで、脊髄や小脳の障害のために様々な症状が表れ、徐々に進行していく。前回お越しいただいたときと違い、今日の車いすにはシートの後ろにバッテリーが積まれているのが見えた。電動アシストタイプの車いすに変えたようだ。
弱っていく体 車いすで毎日電車通勤
二分脊椎という生まれつきの病気を持つ私も、いずれ歩けなくなるはずで、興味を持ってしまう。
「車いすが変わりましたね?」
注文をいただいたコーヒーを提供しつつ、聞いてみた。
「そうなんですよ。自分の力だけで動かすのがつらくなってきたけど、筋力を衰えさせたくないので全自動ではなくこのタイプにしました。通勤もあるし」
そう。彼は、車いすを使いつつも、ほぼ毎日電車を使って職場まで通っている。
「同じ病気だった母親を見てきたので、自分がこの先、もっと弱っていって、どうなっていくのかは、わかっているんです。少しずつ体が動かなくなっていく感覚が、何に対しても『今やっておかなきゃ』という気持ちにさせてくれるんですよね」
熱いコーヒーをすすりながら、話してくれる。母親も同じ病気だったとは驚いた。
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