精子から見た不妊治療
医療・健康・介護のコラム
精子サプリは自然のものだから安心? 補充療法の限界
連載初回に「精子サプリメント」の話をしました。サプリメント(supplement)は「補充」を意味し、ここでは、精子を造るのに足りない物質を「補充」することを指します。薬(医薬品)とサプリメントの違いに簡単に触れておきましょう。
「医薬品は危険である」は正しい
法律で、医薬品は「病気の診断、治療、予防に使用することを目的とした薬品」、一般にサプリメントは医薬品以外の成分を指し、「食品」と定義されています。
みなさんとお話ししていて、「医薬品は人工的で危ない感じがするけど、サプリメントは自然のものだから安心」というイメージがあるように感じます。
「医薬品は危険である」というのは本当です。よく効く薬ほど副作用も強く、使い方を間違えると大変危険ですので、専門家が管理します。同時に「自然のものだから安心」というのも誤りです。フグの毒もコブラの毒も自然のものです。サプリメントは食品ですから、ご本人の判断で「食べて」もさほど危険がありませんが、裏返せば治療効果はあまり期待できません。
貧血の原因は様々
血液中の赤血球が少なくなる貧血を例に、補充療法を説明しましょう。赤血球には鉄を含むヘモグロビンが詰まっており、呼吸で取り入れた酸素は、この鉄に結合して体の隅々に運ばれます。鉄が足りないとヘモグロビンが造れず、貧血になります。足りないものを補って治療しようとする考え方は、数千年前の漢方医学に記された「 以形補形 」が原点です。例えば、肝臓の働きを助けるには、他の動物のレバーを食べれば良い、と考えました。
みなさんは、「貧血=鉄が足りない」とお考えになるかもしれませんが、貧血の原因は、特殊なビタミンの不足、腎臓の障害、お薬の副作用など様々です。鉄の補充が有効なのは、鉄が足りない場合だけであり、かといって鉄を補充すればするほど、赤血球がたくさんできるわけでもありません。取りすぎると鉄過剰症になります。
鉄の摂取を制限しなくてはならない病気があります。肝臓は、鉄の倉庫です。C型慢性肝炎になると、鉄貯蔵を調節する仕組みに異常が起き、肝細胞に鉄が過剰に蓄積してしまいます。これがヒドロキシラジカルという最も危険な活性酸素を生み出し、肝細胞のDNAを傷つけ、ひいては肝がんの発生に影響を与えると考えられています。そこで、食事からの鉄摂取を制限して、鉄の過剰蓄積を回避し、肝細胞を守ります。
レバーの過食はお勧めできない
ここでちょっとレバーのお話をしましょう。レバーの赤い色は、いかにも貧血に良さそうです。ネズミの肝臓に管を入れ、血管内の血液を洗い流して実験することがあります。実は、血液を抜いた肝臓は半透明で、あのレバーの赤い色は血液の色だったのです。
肝臓は「鉄の倉庫」とお話ししたように、確かにレバーを食べることは鉄摂取に有効です。それでも、産婦人科では、妊娠3か月以内の方や妊娠の可能性のある女性は、レバーを過剰に摂取しないようにお話しします。レバーには高濃度のビタミンAが含まれ、胎児に悪い影響があるからです。レバーの過食は妊娠していない方にもお勧めできません。
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