【1】ギャンブルの沼 5 闇カジノの誘惑とワナ
シリーズ「依存症ニッポン」
闇カジノの誘惑とワナ(上) 頭は切れ、コミュ力の高い若者が、あっという間に「壊れる」まで

同乗者がだれもいないエレベーターを降り、雑居ビルの外に出た。
2012年11月、時計の針は午前6時を指していた。大阪・ミナミの道頓堀の近く。薄暗い早朝の街で動いているのは、ゴミ収集車とネズミぐらいだった。
前夜10時頃、このビルの5階で営業する闇カジノに、タイガ(27=当時)が入店したとき、繁華街の隅々にまであふれ返っていた酔客や客引きは、きれいにいなくなっていた。
どこかに消えてしまったのは、人の姿だけではない。タイガの手元に残っていた最後の205万円が、一晩のうちに「バカラ」の闇に溶けてなくなった。頭の中は真っ白で、かろうじて残ったのは虚無感だけ。悔しいという感情などは、とっくにどこかに置き忘れていた。
3時間後には、会社員としての日常が始まる。
もう、どうでもよかった。
*
自分のクルマを止めた駐車場までトボトボ歩いていると、タイガは不思議な感覚に包まれた。自分のすべてが壊れていく奇妙な陶酔感。今の生活、社会人としての立場、そしてこれまで過ごしてきた時間など、すべてがゼロに戻ろうとしている。
自暴自棄とも違う。格好よく言うなら滅びゆく美学――、か。
これまで、どれだけの金額をギャンブルに突っ込んできたのか。返済の迫っている借金は、いくらなのか。そして……、自分の人生は、まだ続くのか。
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