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Dr.三島の「眠ってトクする最新科学」

医療・健康・介護のコラム

スマホのブルーライトは、善玉にも悪玉にもなる

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 こんにちは。精神科医で睡眠専門医の三島和夫です。睡眠と健康に関する皆さんからのご質問に、科学的見地からビシバシお答えします。

 「ブルーライトは睡眠に悪い」が定説になっていますが、本当なのでしょうか? 今回はブルーライトと睡眠の関係について少し掘り下げてみたいと思います。

睡眠への悪影響ばかりが強調されるが…

スマホのブルーライトは、善玉にも悪玉にもなる

 ブルーライトが人の睡眠に与える影響については20年以上前から知られており、決して新しい話題ではありません。スマホやLEDなど、ブルーライト成分を多く含むデバイスや照明機器が身近に増えるようになり、注目を集めるようになりました。雑誌やネット上では「ブルーライトは睡眠に悪い」という記事が多いように見受けられますが、それではブルーライトがかわいそうなため、少し応援しようと思います。

 このコラムでも何度か取り上げてきましたが、光には睡眠を調整する大きく二つの作用があります。一つ目は「体内時計の時刻合わせ効果」、二つ目は「覚醒効果」です。ただし、一口に光といっても、睡眠調整作用を持つのは光の成分のごく一部で、それがブルーライトなのです。

 光(つまり可視光線)の波長はおよそ360~830nm(ナノメートル)で、波長の短い側から順に、紫、青(ブルーライト)、水色、緑、黄、(だいだい)、赤です。紫より波長が短くなると紫外線に、そして赤より波長が長くなると赤外線になります。雨上がりの虹に七色として現れることからも分かるように、太陽光には可視光線の全ての成分がほぼ均等に含まれています。一方、人工的に作成したデバイスにはブルーライト成分を多く含む物が少なくなく、睡眠への影響が懸念されているわけです。

なぜ、夜の光が悪玉扱いされるのか

 さて、ブルーライトの波長は430~490nmで、不思議なことに、ほぼこの青色光のみが体内時計に強く働きかけるのです。私たちの目の網膜には内因性光感受性神経節細胞(ipRGCs)と呼ばれる特殊な細胞があり、この神経細胞が光で刺激されることで脳の中心部にある体内時計 視交叉上核(しこうさじょうかく) に作用して、私たちの生体リズムの時刻調整をしています。そして、このipRGCsがまさに480nm付近のブルーライトにもっとも反応しやすいのです。

 「朝の光で体内時計をリセット」というフレーズをよく見かけますが、これは正しい表現ではありません。光(ブルーライト)は一日のどの時間帯でも体内時計に働きかけます。すなわち、朝でも夜でも体内時計はリセットされます。では、なぜ朝の光が善玉で、夜の光は悪玉扱いをされることが多いのでしょうか?

 それは現代人、とりわけ若者や働く世代の人々の多くが夜型生活に陥って、早寝早起きが難しくなっているためです。朝に起床してから6時間以内に浴びる「朝の光」は、体内時計の時刻を朝型にして(時刻を早めて)くれる特徴があるので、起床が楽になります。それを「リセット」効果と感じるのです。

 逆に、夕方以降から深夜にかけて浴びるブルーライトは体内時計を夜型にして(時刻を遅らせて)しまいます。夜型の人にとっては寝つきを悪くし、起床が辛くなるあまり有り難くない光です。

 「朝の光が善玉、夜の光は悪玉」には納得できるだけの理由があるのですが、すべての人々にこの理屈が当てはまるとは限りません。むしろ朝の光によって睡眠の質が低下している人々がいます。体内時計が朝型に進みすぎている人です。多くの高齢者、それに若い頃から体質的に強い朝型傾向を持っている人などです。

 高齢者は早朝に目を覚まして(開眼して)、早朝の光を多く浴びることで、ますます体内時計が朝型に進んでしまいます。逆に、夜は早い時刻から眠ってしまうため、体内時計を夜型に巻き戻す光を浴びる機会が減ってしまいます。このような人々は意識的に午前中の太陽光を避けることをお薦めします。また、夕方以降に積極的にブルーライトを浴びることで、早朝覚醒が改善したという研究報告もあります。

覚醒効果にメリットも

 このようにブルーライトは、それぞれの人の睡眠や生体リズム(体内時計)、浴びる時間によって益にも害にもなり得ます。一概に朝の光が(夜の光が)睡眠にとって良いとか悪いとか決めつけることはできません。

 最後に、ブルーライトの二つ目の作用である「覚醒効果」についても簡単に触れましょう。「体内時計の時刻合わせ効果」は、24時間かけて表れるゆっくりとした作用であるのに対して、「覚醒効果」はすぐに表れる速効性作用です。一例を挙げれば、スマホ(スマートフォン)の小さな画面から出るブルーライトは、光量が少ないため体内時計を動かす作用はさほど大きくない反面、脳を覚醒させる効果は比較的強いことが明らかになっています。画面を見ただけでちょっとした眠気は飛んでしまうため、不眠を悪化させることがあります。読書をするなら、スマホの画面を「黒背景に白文字」に設定すれば覚醒効果は弱まります。

 ブルーライトの覚醒効果も悪いことばかりではありません。日中のパフォーマンス向上や夜勤中の眠気防止に活用する試みも行われ、それぞれ成果が上がっています。私たちの生活は光(ブルーライト)と切っても切れない関係にあります。「体内時計の時刻合わせ効果」や「覚醒効果」の特徴を知って、うまく使いこなしたいものですね。(三島和夫 精神科医)

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三島和夫(みしま・かずお)

秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授

 1987年、秋田大学医学部卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、スタンフォード大学睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事。著書に『不眠症治療のパラダイムシフト』(編著、医薬ジャーナル社)、『やってはいけない眠り方』(青春新書プレイブックス)、『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(共著、日経BP社)などがある。

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