ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
入居者が急激に体調悪化 いち早く気づいて寄り添った看取り犬「文福」
先月後半、 文福 がまた一人、入居者様を看取りました。
逝去された上原良子さん(仮名、80歳代女性)は、入居されてからまだ半年しかたっていませんでしたが、文福はとても懐いていました。文福は、ユニットで一緒に暮らすすべての入居者様に懐いているのです。上原さんが入居された時にも、最初から上原さんの膝に頭をこすりつけて甘えたり、ベッドに上がって一緒に寝たりしていました。
半年間 犬に囲まれ幸せに
上原さんも、希望されて犬たちが暮らしているユニットに入られたのですから、大の犬好きです。文福が甘えてくるのを大喜びしていました。上原さんが、さくらの里山科で過ごしたのは、人生の最期のわずか半年ですが、文福や他の犬たちのおかげで、穏やかで幸せな半年だったと思っています。
入居されてからも上原さんのお体は徐々に衰えていき、半年後にはついに食べ物も飲み物も受け付けなくなってしまいました。このような状態になると、点滴で命をつなぐか、何もせず自然に死を待つターミナルケア(看取り介護)を行うか、選択をしなければいけません。上原さんのご家族は、看取り介護を希望されました。それは、上原さんご自身が、まだ意識がはっきりされていたころから望んでいたことでもあります。
看取り介護開始から数日、文福の様子が…
食べ物も飲み物も一切受けつけなくなってから、どれくらい生きることができるか。それは人によって大きく異なります。数日という場合もあれば、1か月という場合もあります。私たちの経験では最も多いのは、10日~2週間くらいでしょうか。しかし上原さんは、予想よりはるかに早かったのです。
医師から、もう食べ物も飲み物も無理だと診断され、医師とご家族、そしてホームの介護職員に相談員、看護師が話し合い、看取り介護を開始すると決断してから数日後、文福が上原さんのお部屋の扉の前でうなだれていました。
ユニット長(ユニットの介護職員のリーダー)の坂田弘子(仮名)は、文福の様子を見て「あれっ」と思ったそうですが、上原さんの旅立ちが近づいているとはまだ考えていませんでした。看取り介護を始めてから数日しかたっていなかったためです。文福ほどではないにしても、介護職員も入居者様がどれくらいで逝去されるかの予想はつきます。坂田は、上原さんの逝去はもう少し先だと思っていました。
ベッドに上がり込む文福に、職員は「もしかしたら」
文福はわずか1時間ほど扉の前にいた後、部屋の中に入ると、ベッドに上がり、上原さんに寄り添いました。この段階で坂田は、「もしかしたら」と思ったそうです。この時はもう夜だったので、坂田は夜勤職員に、上原さんの様子に気を付けているように指示して、退勤しました。
坂田のところに、上原さんが逝去されたと電話が入ったのは、午前2時半のことです。もしかしたら呼ばれることがあるかもしれないと、覚悟と準備をしていた坂田はすぐにホームに駆けつけることができました。
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