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Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

医療・健康・介護のコラム

見えない私が見る世界…美しくも不思議な幻視の展覧会

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見えない私が見る世界…美しくも不思議な幻視の展覧会

 「網膜色素変性症」は目の難病です。ものを見るためには、眼球に入力する視覚刺激が網膜にある視細胞に届き、そこで光を受け取ることが必要です。この病気は、その光を感じる視細胞が次第に脱落する病気です。

 多くの場合、最初は網膜の周辺にある細胞から脱落して周辺視野を奪いますが、次第に網膜の中心部にある細胞に及ぶと視力が低下し、失明やそれに近い状態になっていきます。日本でも、長年、厚生労働省指定の難病として研究班が組織され、研究が積み重ねられてはきましたが、いまだに不治の病であることには変わりありません。

 セアまりさん(ペンネーム)は、この病気を持つ私の患者さんです。彼女は1950年、両親が画家という家に生まれ、若い時分は友禅などの染色家として活躍していました。この病気が発症し、進行してからは、盲導犬との日々を絵本として出版したり、フリーダイビングに挑戦したりと、難病をものともしない活動を続けてこられています。

 20年前ごろから見えにくくなった自分の視覚に出現する幻視、「シャルル・ボネ症候群」の世界に魅せられ、この美しく不思議な世界を皆さんに伝えたいと、11月12日から17日まで、東京・池袋のギャラリー 路草(みちくさ) で、 「景絵(ひかりえ)-見えない私が見る世界-セアまり」 という展覧会が開かれます。

 実は、このシャルル・ボネ症候群については、3年前にコラム「心療眼科医・若倉雅登のひとりごと」で取り上げ、彼女が見えているという模様の絵を引用させていただいたことがあります( 2017年2月2日「見えないはずのものが見える! 幻視の世界を絵で再現すると…」 )。

 今回の展覧会では、さらに発展した「見えない私が見る世界」が繰り広げられるものと、大いに期待しているところです。

 このように、自分の病気や、運命的な体験の中で、ただ沈み込んでいるだけでなく、これをプラスに転じて表現し、発表するという行為は称賛されるべきもので、ぜひとも応援したいと思います。

 ただし、セアまりさんのように誰でもプラスに転じさせることができるわけではありません。

 視覚障害者が議員になった、弁護士や医師が誕生した、パラリンピックでこんなにすごい記録を出した、などという成功物語は、しばしばニュースになり絶賛されます。それぞれの方の背景には才能もあるでしょうが、想像を絶する努力や、周囲の応援があったことは間違いなく、驚嘆すべきことだからニュースになるわけです。

 ここで、私たちが誤ってしまいがちなのは、障害者や病気の方々に等しく、「こういう例があるのだから、あなたも頑張りなさい」ということです。

 つまり、そういう 稀有(けう) な成功例を当たり前のこととして求めたり、強いたりしてしまう気持ちが出てきはしないかということです。

 これは、明らかに行き過ぎで、当事者は障害や病に加え、付随する生活環境の不都合や経済的な面で日々、精いっぱい闘っているのですから、そうそう次々とエネルギーが湧いてくるものではありません。

 成功物語の裏には、何十倍もの不成功物語があるのが真実であり、これをこそ理解し、支援すべきだという想像力も持つ必要が私たちにはあると思います。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花つばな流しの診療所」「蓮花谷話譚れんげだにわたん」(以上、青志社)などの小説もある。

過去コラムはこちら

心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

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