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アラサー目前! 自閉症の息子と父の備忘録 梅崎正直

医療・健康・介護のコラム

いつまでも守る…の願いは叶わない 着実に近づく「親亡き後」

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 その日は、いつもより早かった。ラッシュアワーになる前の、空疎な車両を西日が満たしている。 洋介が「自閉症」であることを告げられた朝 は、これと逆行きの列車に乗って職場に向かい、車窓を過ぎる土地をまるで初めて見るように眺めていた。それが、同じ場所を通過する夕方は、遠い昔に見た風景のようで悲しかった。当時の僕は、国会議員が関与したある事件の取材で深夜に帰宅することが多かったが、その日なぜ、明るいうちに帰路についたのだろう。

 青葉台駅の改札を出ると、視界の隅から、小さな影が駆けてくるのが見えた。洋介だった。憂い一つない笑顔で、僕のおなかのあたりに飛び込んできた。そのほんの数秒の映像が、なぜか脳裏に強く焼き付いていて、思えばその瞬間、僕は洋介から一生分の何か重要なものを渡された気がする。そうだ、その日、ただ無性に洋介と会いたくなって、職場を早く出たのだった。

イラスト:森谷満美子

イラスト:森谷満美子

「いつまでも」は叶わない

 恥ずかしいけれど、その頃、号泣しながら目覚めた朝もあった。どんなことがあっても、いつまでも、パパが守ってやるんだと言って抱きしめたのに、夢から覚めると目に一滴の涙もついてなかった。だがやがて、「いつまでも」は (かな) わないと理解しなければならなかった。わが子より一日だけでも長く生きて……と考えるのは責任感ゆえかもしれないが、子どもから見たら親の身勝手な思い込みだろう。

 障害のある子どもがいる親が、共通して抱える「親亡き後」の問題。わが家には、やや頼ってよさそうな次男と、「私が面倒を見る」と言いきれる性格の長女がいる。しかし、人生の負担にならないよう、次男には進学と同時に一人暮らしをするよう促した。それが間違っているとは思わないが、最近は「それだけではないのかな」と考えることもある。この連載を進めるにあたって過去の写真たちを改めて見直すと、次男と長女それぞれの歴史に、洋介は決して小さな存在ではなかった。「君たちに迷惑はかけない」というのは、余計なお世話でもある。

 そしていつの間にか、僕ら夫婦も50代半ばになっている。これから、公の福祉サービスで暮らせる態勢を作れたとしても、弟妹は望む形でかかわればいいと思う。

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梅崎正直(うめざき・まさなお)

ヨミドクター編集長
 1966年、北九州市生まれ。90年入社。その年、信州大学病院で始まった生体肝移植手術の取材を担当。95年、週刊読売編集部に移り、13年にわたって雑誌編集に携わった。社会保障部、生活教育部(大阪本社)などを経て、2017年からヨミドクター。

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3件 のコメント

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縦に長く、多様な施設は?

エンジェル

第1話から拝見しています。洋介さんはかわいらしく、梅崎さんの素直な文章にどんなコメントを送ったら良いのか考えあぐねていました。心ない事件ばかり報...

第1話から拝見しています。洋介さんはかわいらしく、梅崎さんの素直な文章にどんなコメントを送ったら良いのか考えあぐねていました。心ない事件ばかり報道されるのは悲しいです。福祉の資格取得勉強は大変で、私が出会った職員の大半は弱い立場にいる人に寄り添う人達です。

コロナ禍ではダークサイドが刺激されがちなので、私自身は心穏やかで優しい気持ちでいられるようにより一層意識しています。本人だけでなく、親御さんや職員がおしゃべりできる場が再開できると良いですね。オンラインだと難しいのかな。

福祉施設を税金や補助金だけで充実させるのは正直難しいと思います。指定管理者制度や非常勤職員化で昔より給与が減り、不安定になっている職員の雇用を安定させられればもっと良い方向になると思うのですが…。

大病院のようにレストランやコンビニ、賃貸物件、ホテル、学校を含めた縦に長く多様な福祉施設があれば利益を出せると思います。私は専門家ではないので、あくまでも提案です。

今を大切に、梅崎さんご自身もケアしてあげて下さいね。洋介さんと梅崎さんの平穏を祈ります。

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連載を続けて欲しいです

シーズーラブ

今年の2月、息子が自閉症と分かり不安でたまらない日々の中、梅崎さんの連載を読ませて頂きました。ソーシャルワーカーさんも中学からは担当がいなくなり...

今年の2月、息子が自閉症と分かり不安でたまらない日々の中、梅崎さんの連載を読ませて頂きました。ソーシャルワーカーさんも中学からは担当がいなくなり、療育も自分で民間の施設を探さないといけないなど不安になることばかり聞きますが、梅崎さんの連載を読んで希望の光を感じています。これからも続けて頂きたいです。

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いい人と出会ってください

松ちゃん

グループホームも、最近ではコンサルタント会社やハウスメーカーがこの業界に参入するようになり、以前よりかは建設が進んでいる印象があります(しかし営...

グループホームも、最近ではコンサルタント会社やハウスメーカーがこの業界に参入するようになり、以前よりかは建設が進んでいる印象があります(しかし営利目的の会社が進出すると地元住民との間で軋轢が生じたりします)。
しかし、一番大事なのは、運営する法人です。つまり「人」です。ぜひ、たくさんの人との出会いを重ねて、いい人と出会ってください。
応援しています。

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