がん患者団体のリレー活動報告
医療・健康・介護のコラム
NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー(E-BeC)
日本女性のおよそ9人に1人が乳がんになり、患者数は年々増加しています。手術で患部を摘出することで生命は助かっても、胸は大きく変形し、患者さんたちには大きな精神的苦痛が残ります。また、切除したくないため民間療法を頼り、手遅れになる患者さんもいます。「乳房再建手術」は手術によって損なわれた乳房の形を取り戻すことが目的の手術であると同時に、再建できることを知り、前向きに治療を受けようというきっかけにもなる大切な手術です。
E-BeC(イーベック)は、乳がん手術によって損なわれた乳房の形を取り戻す「乳房再建手術」の社会的な認知と理解の拡大、そして乳がん患者さんのQOL(生活の質)を高めることを目的に活動しています。
E-BeCは主に次の四つの柱からなる活動を行っています。
〈1〉公式ウェブサイトを通じた情報発信
「乳房再建手術」に関する情報を幅広く網羅した独自のウェブサイトを運営し、科学的根拠に基づいた情報の発信に努めています。
〈2〉乳房再建手術に関するセミナーの開催
主に東京で行う「特別セミナー」、地方都市を訪れて開催する「乳房再建全国キャラバン」などを年間3~5回、専門の医師や患者会などの協力を得ながら企画・運営しています。いずれも医師による講演と、再建経験者の胸をじかに見て触る“体感会”などを通し、乳房再建手術について具体的に知っていただく機会を提供するものとして好評をいただいています。
〈3〉乳房再建手術に関するアンケート調査
〈2〉のキャラバン会場をはじめ、多くの乳がん経験者が集まる場を活用して、乳がん患者さんにおける「乳房再建手術」の意識調査を実施しています。調査結果は公式ウェブサイトを通じて公表したり、学会で報告したりしており、乳房再建手術のよりよい環境づくりや理解の普及を目指しています。
〈4〉「乳房再建手術Hand Book」の発行
「乳房再建手術」の種類や方法、手術前に知っておきたいことなどをコンパクトにまとめています。全国の乳腺外科、形成外科に無料配布し、再建を考える患者さんに渡していただき、活用してもらっています。
これらの取り組みに加えて、乳房再建を取り巻く環境の変化に伴い、2019年は、次のような特別な活動も行いました。
〈5〉乳房再建手術に関して厚労省への要望書提出
日本で唯一(当時)保険承認を受けているアラガン社のシリコンインプラントを巡り、血液がんの一種、悪性リンパ腫を発症する恐れがあるとして、米食品医薬品局(FDA)の要請を受け、メーカーが19年7月下旬から該当製品の自主回収を始めました。このため、乳がん患者さんの不安や混乱を取り除き、安心して乳房再建手術が受けられる環境を整えてもらおうと、全国24の患者団体を代表し、厚生労働省に要望書を提出しました。異例の早さで19年10月に同社の代替製品が保険適用となりました。
コロナ禍 オンラインでも情報発信
2020年は新型コロナの影響で予定していたキャラバンやセミナーはすべて中止となりましたが、4月から「E-BeCオンラインセミナー」、「Zoomで乳房再建ミーティング」を毎月開催しています。オンラインは日本全国、海外や病室からも参加できるので様々な方に情報を届けることができます。
乳房再建手術を受けた方から先日、「おかげさまでこの度、再建手術を終えました。手術直後は大変でしたけど、再建してよかったです。再建経験者の皆さんのお話を聞けてよかったです。E-BeCのおかげで、ここまでたどり着けました。ありがとうございました」と、うれしい報告をいただきました。
これからもリアル、オンラインで乳房再建に関する正しい情報を届けていきます。
NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー(E-BeC)
E-BeCの前身となるプロジェクトチームが2010年、乳房再建経験者の写真集『いのちの乳房―乳がんによる「乳房再建手術」にのぞんだ19人―』(撮影:荒木経惟 発行:赤々舎)を企画・制作。この取り組みをきっかけに、13年から患者支援団体として活動をスタートした。メール会員は1686人(2020年10月現在)。
ホームページ https://www.e-bec.com/
このコーナーでは、公益法人 正力厚生会が助成してきたがん患者団体の活動を、リレー形式でお伝えします。
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