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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

高1の娘がいます。HPVワクチンは打った方がよいのでしょうか?

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イラスト さかいゆは

イラスト さかいゆは

 新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスのワクチンの話題が飛び交う中、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの話題は、影をひそめている感じもありますが、日本では、接種すべき女性の0.8%(2018年度)にしか接種されていないという深刻な状況が続いています。ワクチンへの関心が高まっている今、HPVワクチンについても、きちんと考えておきたいところです。

リスクとベネフィットを理解し、接種を強くお勧め

 冒頭の質問に対する私の回答は、こうです。

 「現在、国はHPVワクチン接種の積極的勧奨をしていませんが、接種のリスクとベネフィットをよく理解した上で、打つことを強くお勧めします」

 ジェンナーが開発した天然痘ワクチン以来、200年以上にわたって、様々なワクチンが多くの人類の命を救ってきましたが、ワクチンを巡っては、これまでも世界中で論争が起きています。ワクチン接種に強く反対する「ワクチン忌避」の動きもあり、世界保健機関(WHO)では、2019年に国際保健への10の脅威として、大気汚染と気候変動、インフルエンザのパンデミックなどとともに、「ワクチン忌避」を挙げています。日本におけるHPVワクチン忌避の動きにも懸念が表明されています。

 どんな医療行為にも、安全性の懸念や不利益(リスク)があります。ワクチンの場合、健康な人が接種を受けますので、リスクについて、より慎重に考える必要がありますが、リスクを上回る利益(ベネフィット)があるかどうか、という視点で考えることが重要です。

 「リスク」があるから絶対に打たないとか、「ベネフィット」があるのだから絶対に打つべき、と決めつけるのではなく、リスクとベネフィットのバランスを、一人ひとりが自分の問題として考える必要があります。

 HPVは、主に性交渉でヒトからヒトへ感染するウイルスで、子宮 (けい) がん、中咽頭がん、肛門がん、陰茎がんなどの原因となります。子宮頸がんは、ほとんどがHPVによって引き起こされていると考えられ、日本では、年間約1万1000人の女性に発症し、年間約2800人が亡くなっています。比較的若い女性に発症しやすいのが特徴で、20~40歳代の女性では、乳がんに次いで2番目に多いがんです。

 HPV感染を防ぐことができれば、これらのがんの発症を防ぐことができます。そのために開発されたのが、HPVワクチンです。

無料で打てるのに接種率は1%未満

 現在、100か国以上でHPVワクチンの接種が公的に行われています。主な対象は10歳代の女性で、日本では小学校6年~高校1年相当の女性が、公費助成により無料でワクチン接種を受けられます。

 対象女性のうち接種を受けている割合は、スウェーデン、イギリス、マレーシアなど、積極的に取り組んでいる国では80%以上となっているのに対し、日本では0.8%と、きわめて低くなっています。2013年に「定期接種」の対象となった直後に、国の「積極的勧奨」が中止されたことが大きく影響しています。

接種後の症状へのケアは不可欠

 積極的勧奨が中止されたのは、「重篤な副反応」が報告されたためです。HPVワクチン接種を受けた女性1万人あたり5人の割合で、全身の痛み、手足の動かしにくさ、けいれんなどの重篤な症状が報告されています。ワクチン接種を受けなくても、これらの症状が起きる可能性はあり、ワクチン接種とこれらの症状との因果関係ははっきりしないのですが、このようなリスクがありえるという認識は必要で、また、このような症状で苦しむ女の子への手厚いケアも不可欠です。

 ただ、この副反応を理由に、国が積極的勧奨を中止したのは、バランスを欠いた判断でした。現在、日本人女性1万人あたり、132人が子宮頸がんにかかり、30人が子宮頸がんで亡くなっているわけですが、HPVワクチンを接種することで、このうちの多くの方を救うことができます。仮に、1万人あたり5人がつらい副反応を経験するとしても、子宮頸がんで苦しむ人を救わなくてよいという根拠にはならないように思います。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大付属病院で研修後、2000年より東京共済病院呼吸器科医員、02年より国立がんセンター中央病院内科レジデントとして経験を積んだ。05年に東京共済病院に戻り、「腫瘍内科」を開設。08年、帝京大学医学部付属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に最年少部長として赴任し、「日本一の腫瘍内科」を目標に掲げた。10年間の虎の門時代は、様々ながんの薬物療法と緩和ケアを行い、幅広く臨床研究に取り組むとともに、多くの若手腫瘍内科医を育成した。20年には、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、かつてのヨミドクターの連載「がんと向き合う ~腫瘍内科医・高野利実の診察室~」をまとめた、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)がある。

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