産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」
医療・健康・介護のコラム
感染恐怖症で毎度7回の手洗い…行動療法で治す
数年前から感染が不安で、一度に7回も手を洗わないと気が済まなくなった製造現場で働く23歳の上川昭夫さん(仮名)。 「感染が不安で、何度も手洗い……仕事にも差しつかえ、これは病気か?」(10月21日) で紹介しました。診断はWHO(世界保健機関)が作成した国際疾病分類(ICD-10)を用いると、「特異的恐怖症」に当たります。入浴は2時間。衣服も気になって、母親に同じものを3回洗濯させる状態で、ほかの人も巻き込んでいるので重症と言えます。手洗いに加えて、消毒を3回しないと気が済みません。職場では社内の視線があるから何とかしないといけないと考えて、精神科を受診し、治療を始めました。今回は、行動療法など治療の具体的な内容を紹介します。

イラスト 赤田咲子
初めは強い不安を薬で緩和する
行動療法のカウンセリングを始める前に、抗不安薬を使い、強い不安や恐怖症状を軽減させます。症状がある程度軽快してから行動療法に入ります。
私 :感染する、感染させてしまうという恐怖や不安が強いですね。
上川さん:そうです。自分の力では、どうしようもないです。
私 :だからお母さんまで巻き込んでいるのですね。
上川さん:そうです。不安なので自分がコントロールできないんです。
私 :診断は「特異的恐怖症」です。症状が強いので、まず薬で症状を緩和します。カウンセリングだけでは、なかなか恐怖感情は軽快しません。最初は薬の力を借ります。その効果により、症状やとらわれた気持ちが4割程度緩和した時点から、行動療法と言われている、この病気に効果があるカウンセリングを行う予定です。
上川さん:わかります。言葉だけでは軽快しないのは。家族や友人が助言をくれましたが、頭に入りません。
私 :では、不安を緩和する抗不安薬を3錠、服用してください。朝、夕方、寝る前に、1錠ずつ飲んでくださいね。薬の効果で、不安が日ごとに減っていきますよ。また、症状にとらわれて眠りも浅かったのですが、ぐっすり眠れるようになれば、精神的疲労も取れていきます。
上川さん:そうなればうれしいです。薬の副作用は?
私 :眠気やふらつきが多少出ます。飲み続けると慣れて収まる場合と、そうでない時もあります。そうなら報告してください。薬を調整しますから。もう一点、薬を飲んでいる間は、車の運転を控えてください。
上川さん:わかりました。
私 :次週に受診してください。薬が合っているかどうか、効果の程度を知りたいからです。
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