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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

臨床検査学を学ぶということ 新型コロナをめぐる誤解と理解

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「マーフィーを探せ」みたいな!?

臨床検査学を学ぶということ 新型コロナをめぐる誤解の根本にあるもの  

 日本の医学教育は診断教育が不十分だな、と思っています。最近はそれでもだいぶ、ましになりましたが、まだまだなんじゃないかな。

 ぼくが医学生だったはるか昔は、「診断学」の授業は「仕組み」と「事例」しか教えてもらえませんでした。心電図は、どうやったらあんな波形が出るのか。MRI(磁気共鳴画像)は、どのようにして画像を作っているのか。基礎医学目線の「メカニズム」です。

 そして、ベッドサイドの診察所見も「胆嚢(たんのう)炎ではマーフィー徴候が見られる。マーフィーを探せ」みたいな「事例」を教えられたのです。本当に教えるべきは、マーフィー陰性の胆嚢炎はどのくらいの頻度であるか、なのですが(どのくらいかというと、研究にもよりますが3、4割でマーフィー徴候は見られません。マーフィー徴候ってなに?という人は YouTube あたりで Murphy’s sign で調べれば動画が出てきます)。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6852522/

新型コロナ 病原体検査の指針を公表

  新型コロナ騒ぎで、特にPCR検査などの「検査」の話題がとっちらかるのは、もちろん素人さんがバシバシ参入して見当違いなコメントをしているためでもあるのですが、そもそも医者が、特にベテランの医者が、ちゃんとした診断学を学生や研修医のときに教わっていなかったせいでもあります。検査のメカニズムだけでなく、検査の解釈や使い方(ベイズの定理や、ゲーム理論も含めて)を教わっていない。何事も「基本」が大事なのでして、ポーカーのルール、基本も教わらずに、「こうするべきだ」「ああいうやり方がいい」といった議論を重ねても、ブラピが教えるポーカー教室みたいになってしまいます。

https://www.youtube.com/watch?v=dJbbwsdKx78(冒頭1:30くらいまで、の話)

 そんなこんなで、最近「病原体検査の指針」が発表されました。たくさんの学術団体、その他が参与した大掛かりな「指針」です。これは、なかなか良くできています。

https://www.mhlw.go.jp/content/000678571.pdf

 現段階で、臨床現場で「使える」COVID-19診断検査は、

・遺伝子を検査するPCR(リアルタイムPCRを含む)とLAMP法

・定量と定性の抗原検査、の2種類です。

 なお、抗体検査はCOVID-19という病気の診断には役に立たないので、個々の患者さんに使うメリットはありません。また、現在では、かつてのような日本でPCR検査の過度な抑制はないので、第1波のときみたいに見逃されている感染者を考慮する必要はあまりありません。

 おまけに、抗体は数か月でだんだんなくなっていくことも多いことが最近の研究でわかっています。そのため、第1波のときはそれなりに役に立った抗体検査ですが、現在では疫学調査のような研究目的でもまったく役には立ちません。今でも抗体検査をやりたいやりたいという企業・団体や自治体が後を絶ちませんが、そんなお金があるのなら、なにか別のことに使ったほうがよいですよ。

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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1件 のコメント

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実用性や出世のための作法や医学と医科学

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

マーフィーとかシャルコーとかレイノルズとか3徴5徴も覚えきれずに、学生時代のテスト前にみんなでネタをひねった記憶があります。 直接覚えるより、間...

マーフィーとかシャルコーとかレイノルズとか3徴5徴も覚えきれずに、学生時代のテスト前にみんなでネタをひねった記憶があります。
直接覚えるより、間接的なネタを経由したほうが正解に近づきやすい。
これもテストのテクニックですが、一方で、覚えやすい、使いやすい、わかりやすい、現実に即している、といったパラメータはバラバラだと思います。
お役所内でのコミュニケーションには便利でも、現実の現場を大きくマイナスに動かしてしまいかねない理論は危険ですよね。

一方で、臨床の問題は、患者も役所も一般の医師や医療者さえ、治したい事やうつらない事よりもみんなで納得したり一体感を持ちたい事情にあります。
情緒の国日本には論理的な診断を突き詰めるとロンリーになるという事情もあるのでしょう。
そうしたほうが、年功序列の意見や商業的意見を通しやすい政治的事情もあります。

その土壌づくりのために、仕組みや事例ばかり教えて、臨床でみんなで一緒に右往左往して、超長時間労働をして同じ苦労を共有したがる訳ではないかと思います。
特に、治らない疾患や治療難易度の高い疾患の場合、苦悩する医療者の姿を見て患者や家族が納得します。
それがいい悪いではなく、文化だと思った方が、違う考えの人間も日本で生きて生きやすいのではないかと思います。

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