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ココロブルーに効く話 小山文彦

医療・健康・介護のコラム

【Track7】コロナストレス対応の現場から(上) 在宅による不眠、不安からの頭痛、そして揺らぐ高齢者の死生観

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Part2:看護師・母・妻の3役をこなす30代女性の疲弊

【Track7】コロナストレス対応の現場から(上) 在宅による不眠、不安からの頭痛、そして揺らぐ高齢者の死生観

 30代の看護師、サエコさんは、夫と長女(中2)との3人暮らしです。数年前、患者さんの家族からのクレーム対応が大変だった頃に片頭痛の発作を起こし、私が治療した既往があります。

 彼女が現在の病院に勤務を始めたのは、2003年、ちょうど重症急性呼吸器症候群(SARS)の世界的流行が懸念された頃でした。SARS、その翌年の鳥インフルエンザの時にも、職場一丸となって感染対策を学び、それを実践していました。

 今回の新型コロナに対しても、職場全体で立ち向かう士気は高く、彼女もその一員として生き生きと働く毎日でした。しかし、状況が変わったのは、他の病院で発生したクラスターが報じられた今年3月下旬のことです。サエコさんの同僚が対応した外傷の患者さんが、後にPCR検査で新型コロナウイルス陽性と分かったことで、病院全体の雰囲気が変わりました。

 病院スタッフ全員の緊張感と不安が、さまざまな (うわさ) 、それに疑心暗鬼による人間関係上の齟齬などを生じさせていました。幸いにも、同僚看護師はPCR陰性であり、院内感染への不安は払しょくされたのですが、サエコさんは「感染以上に怖いのが、人の誤解や噂の伝播だ」と実感しました。

 自宅にはテレワーク中の夫と休校中の長女がいるため、自分が感染源を持ち帰るわけにはいきません。自分が病院に勤務していることで、家族がいろいろと周りから噂されることはないだろうか……など、これまで感じたことのない不安や恐怖が高まりました。

 激務の職場から帰宅すれば、今度は母親、妻の役割が待っています。日々疲れが募り、やり場のない 苛立(いらだ) ちも強くなってきました。再び、ストレスによる肩や首の凝りからの緊張型頭痛に悩まされるようになり、私に相談に来ました。まずは、筋 弛緩(しかん) 体操や上肢帯・背中を中心としたリラクゼーションを指導し、状況を傾聴してから、次のようなことをお話ししました。

▶一人で何役もこなしている人への労いと支えのまなざし

 医療従事者には緊張度が高い毎日が続いています。サエコさんも感じたように、感染以上に怖いのが人の偏見(バイアス)や噂でしょう。これは医療従事者に限ったことではなく、多くの情報が 錯綜(さくそう) した今、家庭で、職場で、一人で何役もこなしている働く女性へは、そのねぎらいとそれぞれのキャリアに向けた敬いのまなざしが必要です。

 ストレスへのセルフケアだけでは限界があり、今はセルフコンパッション(自分を慈しむ、思いやれること)の視点が必要です。そのためにも、家庭に限らず、周囲にいる人が、お互いに「ありがとう」「心配してるよ」「そのままであってほしい」などの具体的な言葉をかけ合うことが一層求められています。

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小山 文彦(こやま・ふみひこ)

 東邦大学医療センター産業精神保健職場復帰支援センター長・教授。広島県出身。1991年、徳島大医学部卒。岡山大病院、独立行政法人労働者健康安全機構などを経て、2016年から現職。著書に「ココロブルーと脳ブルー 知っておきたい科学としてのメンタルヘルス」「精神科医の話の聴き方10のセオリー」などがある。19年にはシンガーソング・ライターとしてアルバム「Young At Heart!」を発表した。

 2021年5月には、新型コロナの時代に伝えたいメッセージを込めた 「リンゴの赤」 をリリースした。

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