佐藤純の「病は天気から」
医療・健康・介護のコラム
「雨が降ると膝が痛い」は本当か? 実験でわかった気圧と慢性痛の関係
ラットは気圧の「変化」に反応
気圧の変化幅はマイナス27hPa(ヘクトパスカル、1気圧は1013hPa)で、最近の低気圧や台風では普通に変化する値です。このラットは、痛みを感じると足を上げます。それを利用して、関節炎のある足を刺激して、足を上げる回数の変化を見るのです。その結果、気圧を低下させると、関節炎のあるラットは足上げ回数が一気に増えました。さらに不思議なことに、気圧の低い状態が30分ほど続くと、ラットの足上げ回数が元に戻ったのです。つまり、ラットの足上げ回数は、気圧が低いから増えたわけではなく、気圧の低下という「変化」に反応して増えたのです。
このような結果は、“神経痛モデル”ラットでも同様でした。さらに、このモデルラットを使って、どの程度の気圧変化で痛みが強くなるか調べてみると、5hPa程度の日常的によくある気圧の低下で、痛みが強くなることがわかりました。「気象の変化でみられる範囲内で慢性痛の痛みが増強する」ということが、動物実験によって証明されたと言っていいでしょう。
自律神経のストレス反応が関与か
それでは、天気が変化すると、どのようなメカニズムで痛みが増強するのでしょうか?
私は、痛みの増強には、身体の機能を調節している自律神経のストレス反応が関わっていると考えています。慢性の痛みはもともと「ストレスがかかると増強する」という性質があります。気温や湿度が変わると、血圧や心拍数が上がったり、気分が変化したりしますが、人によっては痛みが強くなったりもします。そこで私は、気圧の変化も、温度や湿度と同じように、ストレス反応を起こすのではないか、そうであれば慢性の痛みを増強させることになるのではないかと考えたのです。
それを確かめるために、健康なラットに、血圧と心拍数を連続的に測定できるセンサーをつけ、気圧を27hPa下げてみたところ、血圧、心拍数ともに上昇しました。これらの実験結果から、天気痛にはストレス反応が関わっていて、気圧の変化がそのストレス反応を引き起こしている可能性が高いことがわかったのです。
次回のヨミドクターでは、私たちの身体に備わっていると考えられる「気圧の変化を感じるセンサー」についてお話ししたいと思います。(佐藤純 愛知医科大学学際的痛みセンター客員教授)
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