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森本昌宏「痛みの医学事典」

医療・健康・介護のコラム

ズキズキかビリビリか…「痛みの強さ」を医師に伝えられますか?

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 痛みは極めて個人的な体験であり、その感じ方には個々での差が大きい。同じ刺激を受けても、その人の感受性によって痛みの程度は異なるのだ。痛みは主観である。したがって、この主観による痛みを客観的に数量化することは難しい。哲学では、これを「主客不一致」と呼ぶ。

 現在、痛みの程度を量的に表す尺度としては、視覚アナログスケール(visual analogue scale、VASと呼ぶ)が全世界で広く用いられている。左端を「痛みなし」、右端を「想像できる最も強い痛み(例えば拷問のような)」とした10センチのスケールを患者さんに示して、現在の痛みがどの辺りにあるのかを記入してもらう方法である。治療前の痛みを10点とし、現在の痛みを表す数値評価スコア(pain relief score=PRS)もある。

「点数を減らしたら、きちんと治療してくれへんのちゃう?」

ズキズキかビリビリか…「痛みの強さ」を医師に伝えられますか?

 腰から脚にかけての痛みを訴えて受診されたWさんは52歳の男性、診断は腰椎椎間板ヘルニアであった。問診票に「歩くこともままならないので、VASは100点」と書いておられたが、診察室には普通の足取りで入ってこられたから、100点とは考え難かった。

 また、他の患者さんでこのPRSを確認すると、受診の度に1点ずつ減少した。したがって10回目の受診時には0点、極めて良好な状態になると思われた。しかしである、ある日、涙ながらに、「実はまだ6点くらいは痛いんです」ときた。つまり、私たち担当医に気を使って、意識的に点数を減らしていたのだ。

 一方で、いつまでたってもPRSが10点から減らない方もおられる。日常生活動作の改善度からは、少なくとも5点以下にはなっているだろうと判断できるのだが……。よくよく聞いてみると、「点数を減らしたら、きちんと治療してくれへんのちゃうか、と思って」とのことであった、トホホ。

 このように、これらの尺度はすべて患者さんの主観による評価法であり、様々な要素が加わってしまうことから、使用にあたっては多くの問題点があるのだ。

主観を排除した評価はいまだ不可能

  これらの点を打破すべく、実にさまざまな客観的評価法が試みられてきた。一定量の刺激によってその反応を確認、判定する方法である。たとえば、電気刺激(歯髄神経を電気的に刺激して大脳皮質の誘発電位を調べる)、熱刺激(古典的なハーディーの 輻射(ふくしゃ) 熱法が有名である)、化学的刺激(塩化カリウム溶液を皮膚から電気的に浸透させる)などを与える、などである。私もボランティアとして、この塩化カリウムによるイオン浸透法を経験したことがあるが、この方法はすさまじく痛い! まさに「身もだえする」との表現がぴったりとくる痛みであった。

 こうした方法では、個々の痛みに対する感受性を評価することは可能であっても、その時点で患者さんが抱えておられる痛みの程度を把握することはできない。また、その定量性や再現性などからは改良すべき点が多い。完全に主観を排除した上での評価は、いまだに不可能なのだ。

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森本 昌宏(もりもと・まさひろ)

 大阪なんばクリニック本部長・痛みの治療センター長。
 1989年、大阪医科大学大学院修了。医学博士。同大学講師などを経て、2010年、近畿大学医学部麻酔科教授。19年4月から現職。日本ペインクリニック学会専門医、名誉会員。日本東洋医学会指導医。著書に『ペインクリニックと東洋医学』『痛いところに手が届く本』ほか多数。現在、大阪市北区の祐斎堂森本クリニックでも診療中。

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