産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」
医療・健康・介護のコラム
感染が不安で、何度も手洗い……これは病気か?
新型コロナ予防で、きちんと手洗いをして消毒をすることは新しい生活習慣として必要ですが、仕事や生活に影響が出るほど清潔が気になってしまう患者さんがいます。製造現場で働いている23歳の上川昭夫さん(仮名)もその一人。数年前から「病気の感染が不安で、何回も何回も手洗いをします。またアルコールでも数回、消毒をしないと気がすまないんです」と悩んでいました。このままでは、数か月前に入社した会社の仕事に差しつかえるので、何とかしなければと思っています。
テレビで「不潔恐怖症」をテーマにした番組を見ました。彼は「私にピッタリ当てはまる。職場に迷惑をかけたくないし、治療で楽になるというから、お医者さんに相談してみよう」と考え、勇気を出して精神科クリニックを受診しました。
つり革や他人が触ったものが気になる
私 :精神科医の夏目です。よろしく。どんなことがつらいのでしょうか?
上川さん:もう5年くらい前になりますが、つり革や他人が触ったもの、地面もそうですが、バイキンが付いて汚いので不安になり始めたんです。それから、バイキンを洗い流したいと思って、何度も手を洗うようになりました。
私 :バイキンと言うと、細菌とかウイルスですね。
上川さん:感染してうつるのが怖いんです。インフルエンザや風邪、結核など、様々な菌、先生が言うウイルスも、そうですね。特に多くの人が触れるものは嫌です。
私 :うつりたくないし、うつしたくない?
上川さん:そう、そうです。だから何回も手洗いをします。アルコール消毒もします。外出する時は、アルコール消毒綿のセットを持って出ます。
私 :急にそうなったの?
高校時代、SNSで学級閉鎖の犯人捜しが……
上川さん:高校時代にインフルエンザで学級閉鎖になりました。その時、スマホのラインなどのSNSで、「A君からか、あるいはBさんかもしれない……」「ペットボトルの回し飲みが良くなかったのか」といった、原因探しのやり取りが頻繁にありました。「なにを言われるか分からないから、怖いなぁ」と思ったのがきっかけです。迷惑をかけるし、仲間外れにされる。怖くなって、感染しないように気を付けるようになりました。この時からです。何度も手を洗うようになったのは。
私 :どこから感染したかなんて、分からないことが多いし、感染した人も被害者ですよ。SNSのやり取りは無責任だからね。いじめにつながるかも。感心しないなぁ……。
上川さん:わかります。頭では分かります。「でも、上川から感染した」と言われるのは恐怖です。
私 :うーん。
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