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「今のうちに2階へ」、職員の提案で浸水9時間前に避難…寝たきりの入所者37人救う

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 甚大な被害をもたらした昨秋の台風19号は12日、茨城県を縦断してから1年となる。大子町の介護老人保健施設「やすらぎ」では1階が浸水し、停電でエレベーターも使えなくなったが、1階で生活していた寝たきりの入所者37人は無事だった。生死を分けたのは浸水の9時間前に始めた2階への避難。まだ雨は降っていなかったが、職員らは最悪の事態を想定していた。証言を基に当時を再現する。

■9時間前に判断

 

 職員は入所者の食事の世話を終え、昼食を取っていた。2019年10月12日の午後1時30分頃。外は明るく、風もほとんど吹いていなかったが、テレビからは大雨に警戒するよう求めるニュースが流れていた。

 「停電になってエレベーターが動かなくなったら大変だ」。当時の看護師長で現在は看護師長代行の益子豊子さん(62)は、頭の片隅で心配していた。食事をしながら同僚に話してみると、ほかの職員も同様の意識を持っていた。「今のうちに上に上げましょう」。方針は一致した。

 施設長で医師の安達栄治郎さん(70)は当時、施設を離れていた。益子さんは午後1時42分、安達さんに電話を入れ、「2階に避難しましょうか」と提案した。

 「全員2階に避難させてください」。安達さんは直ちに同意した。

 避難は午後2時に始まり、午後3時半で完了した。入所者をベッドごとエレベーターに乗せ、2階に運んだという。多目的使用ができる2階の廊下にはベッドがずらりと並んだ。

■床上95センチ

 

 施設は、久慈川とその支流の押川に挟まれている。二つの河川が氾濫し、施設周辺の道路などは12日夜、濁流に覆われた。膝上ぐらいまで水かさは増していた。

 施設では午後11時頃、浸水が始まった。玄関のげた箱も室内のテーブルや椅子も、流れ込んだ水で傾いていた。停電し、エレベーターも動かなくなっていた。

 1階の浸水は床上95センチに達した。入所者が1階に残っていれば、水死するなどの被害が出た可能性もあった。ベッドにあおむけに寝た場合、鼻や口の高さは床から約85センチだという。

■避難生活12日間

 

 2階は、もともとの入所者と合わせ、95人が密集する状態になっていた。暗闇の中、益子さんたちは懐中電灯を頼りに入所者のたんを吸引。停電で機械は使えないため、注射器とチューブを使っての作業だった。

 入所者らの食事は魚の缶詰などだった。災害備蓄用の食料を利用した。ガスも使えなくなっており、お湯を沸かすことはできない。ペットボトルに入った水で代用し、保存食用の米をふやかした。

 停電は18日まで続いた。エレベーターの復旧は23日までずれ込み、2階での避難生活は12日間に及んだ。安達さんは「インフルエンザなど感染症の集団感染も気がかりでならなかった」と振り返る。

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