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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

医療・健康・介護のコラム

「高齢者がペットを飼うのはわがまま」は正論だが、判断力や自制心の衰えは誰も避けられない

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犬とふれ合う入居者(さくらの里山科で)

犬とふれ合う入居者(さくらの里山科で)

 前回まで3回、進行性核上性 麻痺(まひ) という難病で、愛犬のナナちゃんと一緒に入居した渡辺優子さん(仮名)について書きました。その第1回について、高齢者が新たに子犬を買ったことに対する大きな反響がありましたので、高齢者のペット問題について少し話させていただきます。

 終生その命を守る責任を負えない高齢者がペットを飼うのはわがままである、という多数の意見には、私も200%同意です。私は現在55歳で、愛犬たち(文福たちではなく、自宅にいる自分自身の愛犬たちです)は10歳です。よく妻と話をするのは「この子達が亡くなったら、もう新しい子を飼うのは無理かもしれないね」ということです。

60歳を過ぎて子犬を迎えてはいけない

 最近の犬の平均寿命は14~15歳。私の愛犬たちが15歳で死ぬとして(考えたくはありませんが)、その時、私はもう60歳です。そこから新しい子犬を飼ったとしたら、そして、その子が平均寿命まで生きてくれたとしたら、私は75歳になります。まだまだ元気でいられるかもしれませんが、60代、70代には思いもかけぬことが起きることを私たちは仕事上よく知っています。脳 梗塞(こうそく) で倒れ、半身麻痺になるかもしれません。転倒骨折で車いす生活になるかもしれません。認知症を発症し、急激に進行するかもしれません。万が一の時、愛犬を不幸な目にあわせてしまうと考えたら、60歳を過ぎて、新たに犬を迎えてはいけないとわかっています。

自分が高齢になった時、正常な判断ができるか

 しかし、現実問題として、私自身が60代になった時に正常な判断を下せるか、となると、その自信がありません。人間、高齢になると、認知症にならなくても、記憶力や理解力、判断力、自制心などが衰えてくるからです。また性格の先鋭化といって、もともとの性格の一部が強くなってしまうことがあります。年をとると、頑固な人はより頑固に、怒りっぽい人はより怒りっぽくなるという現象です。これらのことは人間の頭脳の、いわば経年劣化によるものですから、程度の差や、早い、遅いの違いはあれど、すべての人が避けようがない現象です。

 最近社会で問題になっている「キレる老人」や「クレーマー老人」は、判断力や自制心の衰え、あるいは性格の先鋭化が原因である可能性があります。

 また、高齢者が特殊詐欺の被害にあうことが多いのも、同じ原因であると思います。少し前まではとてもしっかりしていて、詐欺の被害にあうなんて信じられなかった人が、ころりとだまされてしまう。それはまさに、理解力や判断力、自制心の衰えによるものでしょう。

 そして、この加齢による判断力や自制心の衰えこそが、高齢者のペット問題の本質だと私は考えています。

80代になり、寂しさに耐えきれず…ということも

 80代になり、配偶者に先立たれ、子供たちは皆自宅から出ているような、寂しい一人暮らしの犬好きの老人が、寂しさに耐えきれず犬を買ってしまう。少し前までは、その老人自身が、年をとってから犬を飼うのは無責任だと批判していたのに。そんなことが起きても不思議ありません。犬を買ってしまった瞬間は、かつて批判していた時の記憶が思い出せなかったのかもしれません。犬の未来に責任をとれないということの理解ができなくなっていたのかもしれません。記憶や理解があっても、それでも寂しいから犬を飼いたいという自分の気持ちを制御できなかったのかもしれません。

高齢者の自覚だけでは解決しない

 これを高齢者のわがままと一言で片づけることはできません。誰もがそうなるかもしれないのです。私も、これを読んでくださっている皆さんも、今は歳を取ったら犬を飼わないと決意しても、高齢になった時に犬を買ってしまうかもしれないのです。

 念のために確認すると、このような現象は認知症とは別のものです。認知症という明確な病気にならなくとも、全ての高齢者の上に、多かれ少なかれ生じる現象です。

 もちろん、それが認知症となると、さらに拍車がかかります。前回まで書いてきた渡辺さんは、進行性核上性麻痺という難病のため、認知症症状が出ていて、ナナちゃんを衝動的に買ってしまった可能性があります。

 このような高齢者の状況を考えると、高齢者のペット問題は、高齢者に自覚を求めることでは解決できません。社会全体の取り組みが必要です。

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里 山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里 山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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