Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」
医療・健康・介護のコラム
私ががんになったのは、食生活が良くなかったせいなのでしょうか?

イラスト さかいゆは
がんと診断された患者さんは、自分ががんを患った原因について思いを巡らせてしまうことが多いようです。
「なぜ、私はがんになってしまったのだろう」「何がいけなかったのだろう」「食生活が良くなかったから?」「食事には気をつけていた方だけど……」
病気と結びつけず、食事を楽しんで
私の回答はこうです。
「あなたががんになったのは、食事のせいではありません。何かがいけなかったと自分を責める必要もありません。食事と病気を結びつけたりせず、これからも、好きなものを食べて、食事を楽しんでくださいね」
病気には何かしらの原因があるものですが、がんというのは、年を重ねれば、誰もが必然的にかかるもので、「病気」というよりも、「老化現象」と考えるべきだという話もあります。老化とともに、遺伝子に傷がつくなどの異常が重なり、それが発がんにつながります。
もともと遺伝子に傷がつきやすいとか、異常を修復する機能が弱いなど、発がんに「遺伝的要因」が関係していることもあります。有名なのは、乳がんや卵巣がんになりやすいとされるBRCA遺伝子変異で、この変異があることがわかった米国女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、左右の乳房と左右の卵巣を予防的に切除したということでも話題になりました。
生まれつき持っている「遺伝的要因」以外に、生まれたあとの環境や生活習慣などの「環境的要因」も、発がんに関係しています。環境的要因の中には、避けられるものもあり、そういった要因を除去することができれば、がんのリスクを減らせると考えられています。最もよく知られた発がんの環境的要因は、「喫煙」で、この要因を除去すること、すなわち、「禁煙」によって、がんになる可能性を減らすことができます。
国立がん研究センターの予防研究グループでは、「日本人のためのがん予防法」を公開し、予防可能な「環境的要因」として、「喫煙」のほか、「飲酒」「食事」「身体活動」「体形」「感染」を挙げて解説しています。日本人の膨大なデータの研究結果に基づいて、とてもわかりやすく書かれていますが、これらの要因を自分に当てはめて解釈する際には、注意が必要です。
がんの原因としての「食事」 確実なものはない
「喫煙」や「感染」が、がんの原因として確実であるのに対し、「食事」の影響は確実なものではなく、影響があったとしてもわずかなものですので、これらの因子は同列に扱うことはできません。
「喫煙」は、ほとんどのがんのリスクを上昇させるもので、がん患者さんのうち、男性で30%、女性で5%は、喫煙していなければ、がんになっていなかったと推測されます。喫煙は他の疾患の原因にもなりますし、受動喫煙で他人にも影響があることを考えると、「禁煙」は、すべての人に強く推奨されます。
「感染」では、肝炎ウイルス感染が肝炎のリスクを上げ、ピロリ菌感染が胃がんのリスクを上げるほか、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染が子宮頸がんなどの原因になっていることも確実です。がん患者さんのうち、男性で23%、女性で18%は、これらの「感染」がなければがんになっていなかったと推測されます。HPVワクチンは、今も様々な議論があり、日本では接種率が低いままですが、HPV感染が原因となるがんを防ぐためには、若いうちにきちんと接種しておくことが重要です。
一方で、「食事」については、塩分摂取が多いと胃がんになりやすく、肉(加工肉や赤肉)摂取が多いと大腸がんになりやすく、野菜や果物の摂取が少ないと胃がんや食道がんになりやすい、といった可能性が指摘されていますが、いずれも、確実なものではありません。塩分摂取については、がん患者さんのうち、男性で2%、女性で1%が、塩分を1日6グラム以下に抑えていたら、がんになっていなかったという推測もありますが、それ以外の食事内容ががんの主原因になっている可能性は、あったとしても低いと考えられます。
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