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Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

医療・健康・介護のコラム

もっと早くわかっていたら、もっと早く治療していたら…早期発見、早期治療は絶対!?

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もっと早くわかっていたら、もっと早く治療していたら…早期発見、早期治療は絶対!?

 「早期発見、早期治療」は、医療の一般的常識ですが、絶対的ルールではないという事態に臨床現場ではよく遭遇します。

 「早期発見、早期治療」というと、「早期に発見し、早期に治療したら治る」ととられがちですし、また「早期に発見したら、早期に治療するべきである」という意識につながるかもしれません。

 たとえば、職場健診、地域の健診などは、主に内科の領域に限られますが、成人病の早期発見を意識して行われています。その背景には、早期発見、早期治療をすれば増え続ける医療費にいくらか歯止めがかかるだろうという、やや根拠の乏しい過信があるのかもしれません。

 私どもの「目と心の健康相談室」に50歳代の女性からこんな相談がありました。この女性は、近視が強いので、近所の眼科で年1、2回定期的に診察してもらっています。近頃、右目の見え方が悪くなったと自覚していましたが、医師から、白内障のせいだが、まだ手術するほどではないと言われました。白内障は早期発見して、早期に手術をすべき類いの病気ではなく、その医師の判断は正しいといえましょう。

 しかし、だんだん悪くなっている気がして、その2か月後にもう一度受診したところ、 黄斑(おうはん)円孔(えんこう) (網膜の中心「黄斑部」の網膜に丸い穴が開いて、視力が落ちる病気)が見つかり、 硝子(しょうし)(たい) の手術ができる大きな病院を紹介されました。診断が確定し、6週後に手術日が決まりました。ところが、その後も日に日に視力が低下する自覚があり、ちょうど年末にさしかかっていたため、正月明けてすぐにその病院に行って症状を訴えました。矯正視力0.3は前回と変わりませんでしたが、いくらか進んだのかもしれないね、という医師の言葉があったものの、予定されていた手術日は変更されませんでした。

 手術は予定通り行われ、同時に白内障手術も行われました。やがて円孔はふさがりましたが、視力は0.5までしか回復しませんでした。

 ご本人は、これがどうしても納得いかないのです。せっかく黄斑円孔が早期に発見されたのに、手術までにつごう6週間も待たされた。これが十分視力が回復しなかった原因に違いないというのです。しかも、発見されてから手術までの間に症状は進行し、そのことを医師に訴えたのに、考慮してもらえなかったことが不満に拍車をかけたようです。

 女性の気持ちもよくわかります。しかし、医師の立場で言えば、発見から手術まで6週間というのは十分早いし、もっと早ければ回復視力がベターであったはずだとも思えません。網膜のような繊細な感覚組織では、いったん病気が起これば手術などの治療で形の上では修復できても、機能が完全に回復することはまれなのです。

 早期発見しても、治療しない方がいい場合、治療できない場合、治療しても元通りには回復しない場合など結果は様々であり、早期発見、早期治療は必ずしも金科玉条ではありません。

 手術を待っている他の患者の順番を変えねばならないほど、あなたの治療緊急度は高くはなかったと思える、と私は説明しましたが、女性の残念さが解かれることはないのでしょう。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花つばな流しの診療所」「蓮花谷話譚れんげだにわたん」(以上、青志社)などの小説もある。

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