ココロブルーに効く話 小山文彦
医療・健康・介護のコラム
【Extra Track】自殺の連鎖はあるのか――揺れ動く自己評価と周囲との関係――
息苦しい日々が続いています。新型コロナウイルスの感染拡大は、想像をはるかに超えた「負の変化」を、我々の日常にもたらしました。そんな中、人気にも実力にも恵まれた俳優らが相次いで自らの命を絶ちました。もちろん、本当の理由はご本人にしかわかりませんし、周囲が無責任な邪推をすべきではありません。
ただ、なぜ自分から死へと向かってしまう人がいるのか。本当に自殺の連鎖は起こりうるのだろうか。こんな時代だから、もう一度、考えてみたいと思います。
「トンネルビジョン」と呼ばれる心理的な視野狭窄
2019年の日本国内の自殺者数は2万169人(厚労省、警察庁)。減少傾向にあるとはいえ、やはり大変な数になります。これに未遂も加わるわけですから、やはり看過できない状態が続いています。
生と死――。両方の間には途方もない断層があります。心穏やかに生きている人にとって、どんな困難がやってきても、死へのスイッチを押す決断にまでは至らず、万が一、そこに考えが及んでも、必ずためらいが生じます。それでも、自死への「勢い」が「迷い」に勝ってしまうときには、「トンネルビジョン」と呼ばれる、心理的な視野 狭窄 に陥っていることがほとんどです。
人生において難しい局面になり、ほとんど明かりの見えない暗がりに包まれたと感じたとき、「自分にできることは何もない。思い当たるのは、死を選ぶことだけ」といった心理に陥ってしまう人がいるのです。
平常なら押さない「死へのスイッチ」を選ばせてしまう連鎖
今回、人気俳優らが次々に自死を選んだことに、誰もが驚き、悲しみ、そして「なぜ、連鎖的に発生してしまったのか……」と疑問を感じています。もちろん、本当の理由はそれぞれ異なるはずなのですが、周囲から見れば、「容姿に恵まれ、仕事も順調そう。恋愛や家族関係の問題もなさそうな人ばかり」だったので、なおさらです。
本当に、自殺の連鎖はあるのでしょうか。
それぞれの人にとっての「生と死」のギャップは異なります。トンネルビジョンに陥って、あっけなく死へのスイッチを入れてしまった人にとっては、本来は大きな断層がある「生と死」のギャップが小さく見えてしまっているのです。
それに加え、自殺が連鎖してしまう背景を考えると、すでに死へのスイッチを押してしまった人はほかにもいて、「自分だけではない」と考えてしまうことが挙げられます。「死を選択するのは、自分だけではない。あの人だって……」と。
先んじてそのスイッチを押した人が、自分がよく知っている人だったり、有名人だったりすれば、さらに「生と死」のギャップは小さくなってしまうはずです。自死へのハードルを下げてしまう結果になり、「あの人がやったのだから、自分にもできる」と考えてしまう部分もあります。
さらに、日本人の特性も考えられます。とくにネガティブな行動について、私たち日本人は、自分だけが突出してしまうことを避けたがる傾向があり、それが抑制、禁止、自己規制として働くことで、「早まったことはしない」というブレーキの役割を果たします。それが、「あの人もやった」という前例の記憶が、本来なら簡単に押せないスイッチを、押させてしまう可能性もあるはずです。
自殺が連鎖してしまう可能性には、「自分だけではない」との心理が影響していると考えられるのです。
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仕事やプライベートで順調にみえる人々が突然自ら命を断たれ、社会に大きな衝撃を与えました。とても驚き恐怖すら感じました。
またこの悲劇的な出来事への世間の反応にも違和感を覚えました。
自殺に至る人の内面は、当事者にならなければ理解はできません。
しかし、死を選んだ人を理解し、残された側にいて生きている人間が、生き続けていくために、コラムをヒントにさせていただこうと思いました。
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