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ココロブルーに効く話 小山文彦

医療・健康・介護のコラム

【Extra Track】自殺の連鎖はあるのか――揺れ動く自己評価と周囲との関係――

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身近な人との結びつきだけで救えるのか?

 芸能人などは典型的ですが、常に日の当たる場所にいることで、絶えず多くの周りの目にさらされることになります。その結果、ほっと安らげるような、「ストレスから隠れられる場所」が乏しくなっていくことは想像できます。スマホを持つことが当たり前の時代になり、誰もが通信機能のついた高性能カメラを持ち、さらにSNSなどで簡単に広く情報を発信できることで、著名人にとっては、以前にもまして、物理的にも心理的にも「隠れ場所」が少なくなった実感があるはずです。

 著名人であれ、一般人であれ、誰かが自死を選ぶと、よく言われるのは、「身近な人との結びつきがあれば、救えたのではないか」ということ。ライフライン(命綱)のように結びつけられているだれかの存在があれば、どこかの瞬間に救い出されたかもしれないとの考え方です。

 言うことは簡単ですが、人間の心理はそんなに単純なものではありません。

 自立している大人の場合、それぞれの立ち位置に見合った振る舞いが求められます。

 親になれば、子どもから頼られ、お手本としての役割(ロールモデル)になります。逆に、子どもの立場では、親やきょうだいらから愛情や期待を受けていることで、かえって弱ってしまっている自分を簡単にさらけ出せなくなる人もいます。

 これは、日本独特の「恥の文化」にもかかわることかもしれませんが、愛情や期待に見合わないとか、 不甲斐(ふがい) ないと思い込んでいる実情をさらすことなどが、とてつもなくつらいものになることは理解できます。それは、本来は「隠れ場所」となるべき場所が、そうではなくなってしまうことにもつながりかねません。

 普段、身近な人に与えたり、受けたりしている愛情に見合うような価値を自分に見いだせなくなるとしたら、「身近な人との結びつきがあれば、避けられた」などと、紋切り型には言えないはずなのです。

「一人で何役もこなさなければならない」ストレスへのケア

【Extra Track】自殺の連鎖はあるのか――揺れ動く自己評価と周囲との関係――

 人にストレスが襲い掛かる場所は一つとは限りません。職場や家庭、日ごろ生活をしている社会全体にもそれが潜んでいることは、誰もが理解できるはずです。

 もともと本人が何かを抱えている状況に、別の場所からさらなるストレス要素が加われば、ストレスによる反応(不調)が一気に早く進んでしまうことがあります。

 仕事のストレスを抱えて疲労している人に、家族の健康問題だったり、自分の大事な存在を失ったりなどの事態が加わると、予期せぬ反応が起きる可能性は一気に高くなります。家庭、職場、街……、誰もが一人でいくつもの役割をこなして、それぞれの場所でストレスが加わっているという視点こそが求められるのです。

 身近な人との結びつきが大切なのは言うまでもありません。さらに一歩踏み込んで、誰もがお互いに社会や家庭内でいくつもの役割をこなしていることに目配りし、それについての労いを言葉で伝え続けることで、アンカー(錨)のように人を安定させることにつながります。

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koyama-fumihiko_prof

小山 文彦(こやま・ふみひこ)

 東邦大学医療センター産業精神保健職場復帰支援センター長・教授。広島県出身。1991年、徳島大医学部卒。岡山大病院、独立行政法人労働者健康安全機構などを経て、2016年から現職。著書に「ココロブルーと脳ブルー 知っておきたい科学としてのメンタルヘルス」「精神科医の話の聴き方10のセオリー」などがある。19年にはシンガーソング・ライターとしてアルバム「Young At Heart!」を発表した。

 2021年5月には、新型コロナの時代に伝えたいメッセージを込めた 「リンゴの赤」 をリリースした。

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2件 のコメント

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防ぐための心得のように読ませて頂きました

RINJIN

追いつめられたときに、たよれる人がいないならSNSや相談機関、なかには心療内科へ連絡をという記事が多いのですが、じっくり読みやすく感じました。謎...

追いつめられたときに、たよれる人がいないならSNSや相談機関、なかには心療内科へ連絡をという記事が多いのですが、じっくり読みやすく感じました。謎を探るのよりも、こんな人のどんなところに注意していくか。追い詰められる前の心得のように読ませていただきました。

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影響力のある人の自殺

ニコう

仕事やプライベートで順調にみえる人々が突然自ら命を断たれ、社会に大きな衝撃を与えました。とても驚き恐怖すら感じました。 またこの悲劇的な出来事へ...

仕事やプライベートで順調にみえる人々が突然自ら命を断たれ、社会に大きな衝撃を与えました。とても驚き恐怖すら感じました。
またこの悲劇的な出来事への世間の反応にも違和感を覚えました。
自殺に至る人の内面は、当事者にならなければ理解はできません。
しかし、死を選んだ人を理解し、残された側にいて生きている人間が、生き続けていくために、コラムをヒントにさせていただこうと思いました。

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