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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

新型コロナ対策 財政出動から見えてくるもの

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9か国・地域比較 ランセット誌論文から

新型コロナ対策 財政出動から見えてくるもの

 ベストセラー「哲学と宗教全史」をお書きになった出口治明さんが、ご講演の中で「縦、横、算数」とおっしゃっています。これ、とてもいい言葉なので、よくまねして使っています。

 縦とは歴史、横とは他者との比較、そして算数はデータですね。歴史、他者(あるいは空間)、そしてデータを基盤に議論をすると、単純に「そういうもの」なしで議論をするよりも、はるかにレベルが高くて深い知性や洞察のある議論が可能になります。

 例えば、日本の新型コロナウイルス感染症対策を議論するときも、単純に日本で今何をやっているかを議論するだけでなく、他国との比較、それから過去の感染症対策の歴史、こうしたものを計量的データとともに議論すれば、「日本は今、こうなっている」と、のっぺりした議論をするよりも、はるかにマシな議論になります。

 そのような学術研究も出ています。アジア太平洋、ヨーロッパの先進9か国・地域のCOVID-19対策を比較した論文が、医学のトップジャーナル、ランセット誌に発表されました。筆頭著者はシンガポール国立大学のエメリン・ハン先生。キングス・カレッジ・ロンドンの渋谷健司先生も共著者です。

 Han E, Tan MMJ, Turk E, Sridhar D, Leung GM, Shibuya K, et al. Lessons learnt from easing COVID-19 restrictions: an analysis of countries and regions in Asia Pacific and Europe. The Lancet [Internet]. 2020 Sep 24 [cited 2020 Sep 26];0(0). Available from: https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)32007-9/abstract

日本はGDPの40%強 驚異的な財政出動

 この論文では、香港、日本、ニュージーランド、シンガポール、韓国、ドイツ、ノルウェー、スペイン、そしてイギリスの九つの国・地域のCOVID-19対策を多様な側面から比較検討しています。それぞれ、個性のあるコロナ対策をしてきた国・地域ですから、それはそれは、興味深い比較検討が可能になります。

 本稿でこれらをすべて論じることは到底できないのですが、一つ興味深い点に気づきました。各国・地域は新型コロナ対策に緊急的な財政出動を強いられているのですが、日本のそれはダントツだということです。これはこの論文のSupplementary appendixにあるFigure S1を見れば一目瞭然なのですが、日本の緊急財政出動額はGDPの実に40%を超えています。シンガポールやドイツでも20%前後、ニュージーランド、香港、スペインがほぼ10%、ノルウェー、イギリス、韓国に至っては5~7%程度です。

 https://www.thelancet.com/cms/10.1016/S0140-6736(20)32007-9/attachment/cbe350b5-18c5-45d6-8988-5e3ab17e7804/mmc1.pdf

 どういうことなのかな、と思って元文献を探してみると(こういう裏取り作業はとても大事です!)、これは今年の9月17日時点でのデータを参照していました。

 http://web.boun.edu.tr/elgin/COVID.htm

の下にあるエクセルファイルです。(閲覧日2020年9月26日)

 世界168か国・地域を比較したこのデータベースでも、日本は突出してダントツのナンバーワンです。日本が42.2%、2位が中南米のガイアナで40.6%、3位はスロベニアで22.3%……あとは当然、それ以下です。日本、圧倒的です。

 日本はコロナ対策のために驚異的な財政出動をしていたのでした。

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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1件 のコメント

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金やサービスがいきわたれば問題ないが・・

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

公的指導で、かかりつけ医や保健所にコロナ患者の処理が向かいそうですが、単に一般人がみんなが納得しそうな答えが浮かび上がってきた感じはします。 新...

公的指導で、かかりつけ医や保健所にコロナ患者の処理が向かいそうですが、単に一般人がみんなが納得しそうな答えが浮かび上がってきた感じはします。
新型コロナウイルスの問題は、発熱やその他の症状の原因に新型コロナウイルスが全体或いは部分的に関与した患者の出現であり、既存の小規模機関の役割はPCR拠点くらいで、むしろ新たな動線や器材や人材の強化など感染症対策、医療全般およびインフラ全般への包括的な補強が必要になると思います。
CDCもそうですが、特に地方には、立地も含めて複数の拠点に分散するリスクヘッジのシステムが必要になると思います。
またそれらは新型コロナウイルスだけでなく、今後の他のパンデミックに備える意味でも重要だと思います。

ベクテルの秘密ファイルという本を最近読みましたが、上位権力の癒着は政教分離と同じく一定の歯止めを作っても止めきれない部分があります。
それは人間だから仕方ないのかもしれませんが、必要なところにもお金や労力は流してほしい気もします。
感染症はこちらの都合で動いてくれませんし、バイオテロ対策や災害対策も合わせて大事になってきます。

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