鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」
医療・健康・介護のコラム
双子妊娠の18歳女子大生 胎児一人死亡で急きょ帝王切開に…「悲しみ」が感じられない若い親にどう働きかけるか
18歳の女子大学生。 双胎 妊娠(ふたご)で、切迫早産の症状が悪化したため、妊娠31週頃、NICU(新生児集中治療室)のある周産期センターに搬送されてきた。パートナーは二つ年上の大学生で、まだ婚姻はしていない。
一卵性双生児で胎児に異常はなく、切迫早産の治療を継続するために入院した。若年の妊婦で双胎のため、特定妊婦(児童福祉法で、出産後の子どもの養育について、出産前から支援が特に必要とされる妊婦)として、医療ソーシャルワーカーとともに産後の養育環境や育児体制を整える準備を始めた。
妊娠34週の時、朝に助産師が胎児の心音を聴こうとしたところ、片方の胎児の心音が聞こえなかったため、医師による経腹超音波検査を実施することになった。検査の結果、片方の胎児が死亡していることがわかった。その原因はわからなかった。一児が死亡したことにより、生存している胎児の心拍にも異常が表れていた。胎盤血流の変化が影響したと推定された。
何が起きているかを十分理解できないまま…
経腹超音波検査をしながら、医師から本人へ、「原因はわからないのですが、双子の赤ちゃんのうち、一人の心臓が動いていない状況です。そのせいで、もう一人の赤ちゃんにも徐脈(脈が遅くなっている状態)が認められ、元気とは言えない状況です。この赤ちゃんを救うためには、今から帝王切開で出産したほうがいい。早く生まれることになるので、赤ちゃんはNICUに入ることになります」と伝えた。
本人は経腹超音波検査の間、心配そうに画面に見入っていたが、「心臓が動いていない」と聞かされ、静かに涙を流した。医師が「帝王切開にするからね、大丈夫ですね」と確認すると、小さくうなずいた。妊婦の母親には電話で状況を説明し、承諾を得て、緊急の帝王切開となった。
助産師は、短時間で帝王切開を行うための準備をしながら、この妊婦にかかわっていたが、事前に本人の気持ちを傾聴する余裕がないまま執刀となった。妊婦本人は、説明されたことを言葉としては理解しているが、何が起きているかを十分理解できないまま、なされるがまま手術を受けることになったように見えた。
誕生と同時に一人を失う難しい経験
帝王切開後、妊婦本人は赤ちゃんの誕生を祝い、母親としての役割を担うと同時に、亡くなったもう一人の赤ちゃんを失った悲しみに向き合うことになります。一人の母親として、相反する気持ちをどう整理していけばよいか、非常に困難な経験になると察せられます。この妊婦に対し、どうアプローチすべきか悩み、「これでよかったのか……という思いが残った」と、経験豊かな助産師が語ってくれた事例です。
助産師は、妊婦にかかわっていくなかで、本人もパートナーも若く、自分の体験や子どもへの感情、気持ちの混乱などを言語化する力が十分ではないと感じていました。そのため、感情を読み取ったり、表現を促したり、代弁を試みたりするケアを考えていったそうです。
「亡くなった赤ちゃんのせいで緊急手術になり、怖い思いをした」というネガティブな体験となっていないか……との懸念もありました。そこで、「急な手術で大変でしたね」と声をかけながら、一児の死亡がわかってから手術前後までを振り返るよう、話を向けてみたりしました。しかし、本人は自分の体験を語ることがなく、一言二言、返ってくる言葉からは、「急に手術になって不安だったが、もともと帝王切開の予定だったから大丈夫」というような受け止め方をしているように見えたそうです。
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