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Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

医療・健康・介護のコラム

眼科検診、「あかんべえ」を知らない子どもたち

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眼科検診、「あかんべえ」を知らない子どもたち

 東京都千代田区にあるこども園と小学校の眼科のそれぞれ園医、校医を務めている関係で、恒例の検診を行ってきました。

 今年は新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)で、一時延期されていたものです。いつもは内科、耳鼻咽喉科、歯科と眼科の4人の医師によるチェックを、同日に全員に対して行うのですが、今年は各科ごとに行う段取りで行われました。児童たちは検診を受けるため列を作って並びますが、密を避けるため前後の間隔は空けるように指導されていました。医師にも、マスクはもちろん、消毒や予防具が周到に用意されていました。

 眼科の場合、視力検査は別に行われているので、私がする作業は斜視やその予備軍ではないかの判定と、結膜など眼表面の状態をチェックすることです。

 昭和30年代初めごろまで、日本ではトラコーマ(クラミジアの感染)が多かったという歴史から、以来、眼科の学校医は子どもたちの結膜の状態をよく観察することが習慣となっています。しかし、やがてこの感染症は下火になり、段々感染症よりも花粉症などのアレルギーが結膜炎の主体になりました。もちろん、細菌感染やアデノウイルスなどによる感染(はやり目)も時には発生しますが、学校検診でそれらが見つかる頻度は少ないものです。

 ところが今年は、COVID‐19が 蔓延(まんえん) し、このウイルスは結膜にも存在しうることが報告されました(本コラム2020年4月30日 「目から感染する可能性のある新型コロナウイルス」 )。

 眼科医としては、赤目部分( 眼瞼(がんけん) 結膜)を観察すべきだという習慣は今も継続していますので、それをしなくてはいけません。しかし、医師の手でそれをすれば、一人一人診るごとに手指の消毒をしたり、手袋を取り換えたりしなければならないなど非常に煩雑なことになり、とても大勢の子どもを短時間で安全に診ることはできなくなります。

 そこで、子どもたちに「あかんべえ」を自分でしてもらうことにしました。

 ところが、そう指示しても、かなりの子どもが、きょとんとしています。「あかんべえ」で通じないならと、「あっかんべ」とか「べっかんこう」とか言い直してみましたが、同じです。中には「べー」と舌を前に突き出す子もいます。

 ためしに広辞苑で引いてみますと「下まぶたを引き下げ、裏の赤い部分を相手に見せて、軽蔑や拒否の意を表すしぐさ」とあります。ネットで検索してみると、江戸時代初期からすでにこの日本語はあったようです。

 かつてわんぱく坊主たちが外で大騒ぎして駆け回っていたころは、遊びの中で当たり前に使われた「あかんべえ」。少々意地悪な意味を持った言葉、しぐさですが、陰湿ないじめやけがには結びつかないあどけなさを私は感じます。こういう日本語も、時代とともにすたれていくのでしょうか。

 検診の方は、養護教員がしぐさをしてみせてくれ、次の子どもは前の子のまねをしてくれたので、何とか時間内に終わりました。

 「今日学校で『あかんべえ』を教わったよ」と、親にでも報告されたら、校医としてはちょっと面目が立たないなと考えながらの帰途でした。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花つばな流しの診療所」「蓮花谷話譚れんげだにわたん」(以上、青志社)などの小説もある。

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