食べること 生きること~歯医者と地域と食支援 五島朋幸
医療・健康・介護のコラム
患者がPCR陽性で「濃厚接触者」になった……歯科診療はストップ、1週間の自宅待機で足はふらふら
新型コロナでデイサービスを休止、体重が6キロ減の98歳
活動が低下することで、状態が悪くなる患者さんも出てきています。昨年末、いつものように山田さち子さん(仮名、98歳)と洋子さん(同、63歳)の親子が外来受診されました。洋子さんはお口のクリーニング、さち子さんは入れ歯の点検が主目的で、3か月に1度来院されます。さち子さんは骨太でふっくらされておりとてもお元気。多少の認知症はあるものの、声も大きく、つえなしで歩いています。
それから半年以上音沙汰がなく、今年9月になってようやくアポイントの連絡が入りました。お二人が診療室に入る姿を見て一瞬息をのみました。さち子さんは一回り、いや、二回り小さくなっており、洋子さんに支えられながら、ようやく歩いています。
「どうされたんですか、何かご病気ですか」と尋ねました。すると、洋子さんは、「いや、そんなことはないんです。コロナでしょ。家の外に出さないようにしているんです。だから歯医者さんもお休みしていたんですが、入れ歯が痛いっていうものですから。今はデイサービスも行かせないようにしているので、本当に久しぶりに外に出たんですよ。このところあんまり食べなくなってしまって」
「体重はどうなんですか。大分やせられましたよね」
「さあ、量ってないから」
スタッフがすぐに体重計を用意します。
「もともとどれくらいでしたっけ?」
「56キロくらいかしら」
簡易的に靴のまま、洋服もそのままで体重計に乗ってもらうと、50キロジャスト。
「この数か月でこれだけ減るって異常なことですよ。もともとポテンシャルも高いお母様ですからデイサービスとかも以前通り使われたらどうですか」
「いやぁ……だってコロナが怖いし」
「でも、このままだと……」と言いかけてやめました。新型コロナ患者が出ているデイサービスもあるし、ご家族の判断ですから。ただ、あれだけ口数の多かったさち子さんが一言も発することなく、じっとこちらに視線を向けているのはつらいことでした。
快活に外に出ていた方たちが、感染を警戒して半年以上も外出機会を減らしています。このことは、高齢者に大きなダメージを与えています。今は、まだ実態がよくわかっていないのかもしれません。それが明らかになってきた時、日本は愕然(がくぜん)とするのではないでしょうか。インターネットやテレビなどでも自宅での運動法を特集していますが、精神的な健康をなくしてしまうと、やる気も出ません。1週間の自宅待機で僕も身をもって体験しました。誰もが健康的に外出できる日が来るのを願うばかりです。(五島朋幸 歯科医)
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