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アラサー目前! 自閉症の息子と父の備忘録 梅崎正直

医療・健康・介護のコラム

混雑する電車や店舗で大騒ぎ ジタバタ大の字で…「パニック」の思い出は親子の歴史だ!

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「くせの悪いガキだな!」と

歩き始める頃から、パニックも始まった

歩き始める頃から、パニックも始まった

 「パニック」と一口に言っても、その状態や原因については様々だ。一般的には、興奮したとき、特有のこだわり行動が高じたり、それを抑制されたりしたときのほか、音や触られることへの過敏さから、本人にとっての不快な感覚があった場合にも起きるという。洋介の場合は、空港や列車の中など移動中に起きることが多かった。いつも帰省で使う福岡空港ではなく、飛行機が宮崎空港に到着したときに激しく泣き続けたことがあって、自分の想定と違う事態に直面した場合にパニックを起こしやすいのではないかと思う。

 特に、密室になる列車でジタバタ、ワーワーとなるのが一番困るパターンだ。ラッシュアワーと重なったりすると、ただでさえ疲れてイライラしているサラリーマンたちの視線が厳しくなる。妻が、世田谷の実家から当時住んでいた横浜まで、洋介と列車で帰ったときは、「くせの悪いガキだな!」と言い捨てて下車した中年男性もいて、まだ20代だった妻はいたく傷ついたという。ただ、別の日には、泣きわめく洋介に優しく話しかけて、お菓子を握らせてくれた中年男性もいたらしく、もしかしたら、その人の身近にも洋介のような子がいたのかもしれない。

女子高生たちが“つんつん”

 もちろん、僕にもそんな経験はある。洋介と2人で早朝、羽田空港に向かわねばならなかったときは、超満員の車内で恐れていた事態が起きた。片手に2歳の洋介、片手で荷物とつり革を持つ形になった僕は、体もつらかったが、乗客の耳元の高さで泣きわめく迷惑に対する周囲の目のほうがずっときつかった。そんなとき、登校中の女子高生たちが、降り際に「この悪ガキ~」と言って、洋介の頬っぺたをつんつんしていったことに、なんだか救われる気がしたのだった。

 もっと余裕のある状況で、本人に負担がなく、周囲にも迷惑をかけない選択をすべきなのかもしれない。しかし、障害がある家族がいても、その時間、その手段で、目的地に行かねばならないことはある。そうした経験から身につけたのは、どんなに子どもが泣き叫んで暴れても、自分は冷静でいられる「気持ちの切り替え」だ。自分たちの姿を、どこからか 俯瞰(ふかん) して見ている感覚。

 恐れていたパニックも、20歳を過ぎてからは頻度が少なくなった。今では、年に一度あるかないか……だけど、いったん起きてしまったら、今の僕の体力で今の洋介を抑えるのは結構、大変だ。それでもなんとかなっているのは、洋介の方が僕に合わせて、手心を加えているのかもしれない。(梅崎正直 ヨミドクター編集長)

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umezaki_masanao_prof

梅崎正直(うめざき・まさなお)

ヨミドクター編集長
 1966年、北九州市生まれ。90年入社。その年、信州大学病院で始まった生体肝移植手術の取材を担当。95年、週刊読売編集部に移り、13年にわたって雑誌編集に携わった。社会保障部、生活教育部(大阪本社)などを経て、2017年からヨミドクター。

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2件 のコメント

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簡単に言ってはいけないけれど

場末の施設長

 心待ちに読ませていただいております。  簡単に言ってはいけないと思いますけれど、読むたびに梅崎さんご家族の軌跡の一端を感じ、障害福祉に携わる者...

 心待ちに読ませていただいております。
 簡単に言ってはいけないと思いますけれど、読むたびに梅崎さんご家族の軌跡の一端を感じ、障害福祉に携わる者として胸を熱くしております。
 こうした家族の軌跡を客観的に文章で読むことができるのは非常に貴重なものと思っております。
 今日も一人の利用者さんがパニックを起こし、私を見つけるなり走り寄ってきて、手を強く握りしめてきました。刺激の少ない個室に移動して対応しますと、次には私の手をさすり「よし、よし」、そして強く握るを数回繰り返して治まりました。イライラのぶつけ先として認識していてくれる(こいつなら受け止めてくれるかもと感じていてくれればうれしいですが)らしく、数名のパニックのある利用者さんが同じように関わってきます。
 私も利用者さんも双方がけがをしないように対応する(けがをしたら元も子もないので)のは大変ですが、様子を見ていると、やっぱりどうしてよいのかわからない高ぶりやイライラがあるようで、「本当にしんどいんやなあ」とつくづく思います。そして、治まった後は皆さん申し訳なさそうにしています。ただ、そうしたことを繰り返していくうちに少しずつ緩やかな、短いパニックになっていくのが感じられます。
 若いころは虐待まがいと思われても仕方のないような強い止め方しかできなかった私が、今穏やかな対応ができるのは利用者の皆さんに学ばせてもらったおかげかなと今さらながら感じております。

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うちの子もパニック

みーとがーの母

 うちの自閉症スペクトラムの娘も、パニックを起こして街なかで泣きわめいたり、転がったりしていたなあと思い出しました。  パニックの対応は、命にも...

 うちの自閉症スペクトラムの娘も、パニックを起こして街なかで泣きわめいたり、転がったりしていたなあと思い出しました。
 パニックの対応は、命にも関わるので、非常に大事です。言葉や未来が不完全に理解できるころ、本を何度も読んだものです。認知行動療法の本の一つで、叱らない子育てというものがあり、言葉の理解がイマイチな娘に叱ってもムダなので読んで実践していました。コレが、はた目にはダメ母さんに見えるやり方なんですよ。パニックを起こさなければ、モノ等で褒美をあげる。パニック中は目も合わさず無視する。放置ではないんですが。
 久々に今、母に私が叱られていて、モノをあげすぎ! って。久々に眠れなくなりました。
 母は孫が正常発達になったんだと思ってるんだな。マンホールへの執着も、パニックも、興奮しやすさも、この記事の息子さんと似ていますよ。そもそも診断済みなんだけど。正しいモノのやりとりで絆と安全が生まれるなら、安いもの。勇気を持って、今週末、母に説明しに行こう。
 いいわけ、って言われるのかなあ。

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