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アラサー目前! 自閉症の息子と父の備忘録 梅崎正直

医療・健康・介護のコラム

混雑する電車や店舗で大騒ぎ ジタバタ大の字で…「パニック」の思い出は親子の歴史だ!

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 たくさんの足が遠巻きに過ぎていく。男の革靴にスニーカー、小さな運動靴、ハイヒール……。僕の目の位置から見えるのは、人々の膝から下だけだ。

 休日のショッピングモールの中央通路。おびただしい人が右へ左へ行き過ぎる。その真ん中、大の字になって両手足をバタバタさせ、わんわん泣きわめいているのは洋介である。もう十数分、そうした状況が続いている。こんなときは、何を言ってもムダで、自然とおさまるのを待つしかない。僕はすっと、洋介の横にあぐらをかいて座り込んでいる。

 家族連れやカップルたちはもの珍しげに、あるいは、気の毒そうなまなざしを向けて通り過ぎているのかもしれない。が、洋介と10年も付き合ってきた僕は、周囲の視線がそう気にならなくなっていた。通路の中央にぽっかりと円形の空間ができ、混雑する休日には迷惑だったに違いない。

混雑する電車や店舗で大騒ぎ ジタバタ大の字で…「パニック」の思い出は親子の歴史だ!

イラスト:森谷満美子

幅1メートルのガラスが落ちてきて…

 自閉症の子どものいる人が、幾度も経験し、また恐れてもいるのが「パニック」だろう。洋介の場合は、1歳半頃から目立つようになり、旅行で利用した北海道の小さな空港で何十分も大泣きがやまなかったとき、とくに妻は、「ママがいるのに、どうして泣き止ませられないの?」という周囲の視線を浴びている気がして、居たたまれなかったそうだ。

 春と秋、季節の変わり目は不安定になり、睡眠のリズムもおかしくなってしまう。忘れもしない5歳の5月、連休前にリビングでパニックを起こしてサッシを蹴破ってしまった。縦横1メートル幅くらいのとがったガラスが落ちてきて、フローリングに突き刺さったときには生きた心地がしなかった。本人にけががなかったのは、幸運でしかなかった。頼み込んで、翌日来てもらったガラス屋さんが、ものすごく慎重にそのガラスを扱うのを見て、また怖くなった。

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umezaki_masanao_prof

梅崎正直(うめざき・まさなお)

ヨミドクター編集長
 1966年、北九州市生まれ。90年入社。その年、信州大学病院で始まった生体肝移植手術の取材を担当。95年、週刊読売編集部に移り、13年にわたって雑誌編集に携わった。社会保障部、生活教育部(大阪本社)などを経て、2017年からヨミドクター。

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2件 のコメント

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簡単に言ってはいけないけれど

場末の施設長

 心待ちに読ませていただいております。  簡単に言ってはいけないと思いますけれど、読むたびに梅崎さんご家族の軌跡の一端を感じ、障害福祉に携わる者...

 心待ちに読ませていただいております。
 簡単に言ってはいけないと思いますけれど、読むたびに梅崎さんご家族の軌跡の一端を感じ、障害福祉に携わる者として胸を熱くしております。
 こうした家族の軌跡を客観的に文章で読むことができるのは非常に貴重なものと思っております。
 今日も一人の利用者さんがパニックを起こし、私を見つけるなり走り寄ってきて、手を強く握りしめてきました。刺激の少ない個室に移動して対応しますと、次には私の手をさすり「よし、よし」、そして強く握るを数回繰り返して治まりました。イライラのぶつけ先として認識していてくれる(こいつなら受け止めてくれるかもと感じていてくれればうれしいですが)らしく、数名のパニックのある利用者さんが同じように関わってきます。
 私も利用者さんも双方がけがをしないように対応する(けがをしたら元も子もないので)のは大変ですが、様子を見ていると、やっぱりどうしてよいのかわからない高ぶりやイライラがあるようで、「本当にしんどいんやなあ」とつくづく思います。そして、治まった後は皆さん申し訳なさそうにしています。ただ、そうしたことを繰り返していくうちに少しずつ緩やかな、短いパニックになっていくのが感じられます。
 若いころは虐待まがいと思われても仕方のないような強い止め方しかできなかった私が、今穏やかな対応ができるのは利用者の皆さんに学ばせてもらったおかげかなと今さらながら感じております。

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うちの子もパニック

みーとがーの母

 うちの自閉症スペクトラムの娘も、パニックを起こして街なかで泣きわめいたり、転がったりしていたなあと思い出しました。  パニックの対応は、命にも...

 うちの自閉症スペクトラムの娘も、パニックを起こして街なかで泣きわめいたり、転がったりしていたなあと思い出しました。
 パニックの対応は、命にも関わるので、非常に大事です。言葉や未来が不完全に理解できるころ、本を何度も読んだものです。認知行動療法の本の一つで、叱らない子育てというものがあり、言葉の理解がイマイチな娘に叱ってもムダなので読んで実践していました。コレが、はた目にはダメ母さんに見えるやり方なんですよ。パニックを起こさなければ、モノ等で褒美をあげる。パニック中は目も合わさず無視する。放置ではないんですが。
 久々に今、母に私が叱られていて、モノをあげすぎ! って。久々に眠れなくなりました。
 母は孫が正常発達になったんだと思ってるんだな。マンホールへの執着も、パニックも、興奮しやすさも、この記事の息子さんと似ていますよ。そもそも診断済みなんだけど。正しいモノのやりとりで絆と安全が生まれるなら、安いもの。勇気を持って、今週末、母に説明しに行こう。
 いいわけ、って言われるのかなあ。

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