Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」
医療・健康・介護のコラム
がんを治すために食事療法を勧められました 食事内容を変えた方がよいのでしょうか?
「親戚から、肉や乳製品を控えるように言われました。私ががんになったのは、食事に原因があるので、がんを治すためには、食事を変えなければいけないと。食事療法の本も送ってくれたのですが、この通りにやった方がいいのでしょうか」
肉はだめ? 乳製品もよくない?
診察室では、食事に関する質問をよく受けます。
インターネットでは、がん患者さんに対する食事療法の情報が飛び交い、それに関する書籍もたくさん出版されています。肉は食べてはいけないとか、乳製品をとらないようにしたらがんが治ったとか、糖分はがんのエサになるから厳禁とか。
こんな情報を目にして、「食事を根本的に変えなければいけない」と思ってしまう患者さんやご家族もおられるようです。
好きなものは制限せず、何でも食べて
私の答えは、こうです。
「これからの食事内容で、がんの経過が変わるという明確な根拠はありません。『がんに効く』とか、『がんによくない』なんてことは考えず、今までと同じように食事を楽しめばいいんですよ。お好きなものは制限したりせず、何でも食べてくださいね」
食事療法を信じて熱心に取り組んでおられる患者さんに向かって、頭ごなしに否定するようなことはしませんが、食事療法のせいで食事が楽しめていなかったり、苦痛になっていたりするような方には、「無理しない方がいいのでは?」とお話しします。
「大好きだったお肉をガマンしていますが、隣の人がおいしそうに焼き肉を食べているのを見ていたら、食べたくなってしまいました」
「野菜ジュースを毎日飲んでいるんですが、正直言って、おいしいものではなく、憂鬱です」
ガマンしたり、憂鬱になったり。それが「健康」のためだと患者さんはおっしゃるのですが、私には、健康とは逆のようにも思えます。
楽しいはずの食事をストレスにしない
苦痛に耐えて食事療法に取り組んで、その苦痛よりも大きい利益(ベネフィット)が得られるのであればいいのでしょうが、食事療法によって何らかのベネフィットが得られるという根拠は、ほとんどありません。それよりも、楽しいはずの食事の時間がつらくなったり、ストレスを感じたりすることは、生活の質を落とすことになりますし、がんの治療経過にも悪影響を及ぼしかねません。
自分で信じているわけではないのに、家族や親戚から強く言われて食事療法をしているという場合は、もっとつらいですね。患者さん本人とよく相談した上で、私から家族を説得するようなこともあります。
もちろん、その食事内容が自分にあっていると感じられて、体調もよく、特別な費用がかかることもなく、ストレスも感じていないのであれば、それを続けても大丈夫ですが、その場合も、食事とがんとを結び付けることなく、純粋に食事を楽しめばよいのではないかと思います。
食事のたびに、あるいは、食事を準備するたびに、メニューや食材を見て、「これはがんにいい」「これはがんによくない」と区別しなければいけないというのは、ストレスにもなりますし、おいしい料理も純粋に楽しめなくなってしまいます。せっかくの楽しいお食事タイムですので、がんのことは忘れて、料理とだんらんを満喫できた方がよく、その方が、より元気になれるのではないかと思います。
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