産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」
医療・健康・介護のコラム
「不祥事がばれた」……私の耳元でささやきかけるのは誰?
大手メーカーに勤務している40歳の経理課長、朝倉太郎さん(仮名)は、職場に行く途中、突然「朝倉、お前は狙われている。不祥事がばれた。俺の命令に従わないと、大変なことになるぞ」という声が聞こえてきました。驚いて周りを見渡しましたが、彼に話しかけている人はいません。気のせいかと思いましたが、命令の声は続くのです。都会の雑踏、「疲れか」と歩き続けると、不気味な声で「狙われている。俺の言うとおりにしろよ。身の破滅になるぞ」と再び耳元で声がします。恐怖感に襲われ、冷や汗がでて、前に進めません。
聞こえる声が怖くて、身動きできない
出社しなければとタクシーに乗りました。恐怖で真っ青、体が硬直した状態で、課長席に座りました。その間も、命令する声は続いています。ほかのことは考えられません。部下たちは、奇異な感じがする課長を見てぼう然とします。「何かあったのかなぁ」「何かおびえているみたい。話しかけても返事がない」……。様子がおかしいので上司の部長に連絡。部長が駆け付けました。
声に支配されて何もできない
部長 :朝倉、どうした? 真っ青な顔をして。
朝倉さん:私は狙われている。怖い……。
部長 :えっ、何を言うんだ。
朝倉さん:「秘密をばらして、破滅に追い込むぞ」……と命令してくるんです。
部長 :よくわからないが。
朝倉さん:破滅だ!
部長 :疲れているのでは?
朝倉さん:「命令に従え」という声が。
部長 :命令する声って、誰が?
朝倉さん:部長には聞こえませんか?
部長 :聞こえないよ。
朝倉さん:そんなことは……。ずっと命令するのです。今も。
部長 :(部員に声をかけ)命令する声が聞こえていますか?
社員一同:何も聞こえないよね。聞こえていませんよ。
朝倉さん:怖い……。
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