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Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

医療・健康・介護のコラム

目の病気の遺伝問題を扱った今年の心療眼科研究会…臨床上、避けて通れないテーマ

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目の病気の遺伝問題を扱った今年の心療眼科研究会…臨床上、避けて通れないテーマ

 筆者が共同代表を務める「日本心療眼科研究会」の第14回例会が、去る7月18日、「遺伝と心療眼科」をテーマに開催されました。

 病気に遺伝が関与すると、個人情報や差別など、複雑で微妙な問題が絡んできますので、我々臨床医としてはできれば避けて通りたいところです。しかし、第14回例会の世話人、岩田文乃医師(順天堂大学眼科)は国内では珍しい眼遺伝外来を受け持っているところから、このテーマにちなむ三つの講演を企画したのです。

 野口麻衣子さん(「RBピアサポートの会」共同代表)は「成人したRB(網膜芽細胞腫)患者が直面する課題と支援」と題しての講演でした。

 網膜芽細胞腫は乳児の網膜に発生する悪性腫瘍で、1万5千人に1人の割合で発生します。国内での新規患者は年間約80例。両眼性のものと、片眼性のものの10%が遺伝性で、13番染色体にあるがん抑制遺伝子「RB1」に異常が生じることで発症します。

 悪性腫瘍ですが死亡率は低く、治療はほぼ乳幼児期に終了することになります。できるだけ眼球を温存する治療が行われますが、今日でも眼球摘出をせざるを得ないケースも多く、視覚障害を抱えて成人になります。

 やがて障害を抱えての人生を考える時が訪れ、成人すると結婚や出産に際しては遺伝問題が生じます。また、ヒトに十数個備わっているがん抑制遺伝子の一つに異常がある病気ですから、網膜芽細胞腫以外の二次がんの危険性も考えねばなりません。このように、この病気では全人的な生涯にわたるケアが必要ですが、多くの場合、乳幼児期の治療が一段落すると医療の土俵からは離れてしまいます。

 果たして、当時者が成人して急に諸問題に気づいても、適切な対応がとれるでしょうか。例えば「出生前診断」「着床前診断」を利用するかしないかは個人の問題ですが、その知識がなければ選択肢になりません。

 野口さんや、2人目の講演者で日米の認定遺伝カウンセラーの資格を持つ田村智英子さんは、ともに非医師の観点で、さまざまな遺伝病患者や家族に関わってきました。

 田村さんは「眼科疾患の遺伝カウンセリングの現場から」と題した講演で、患者やその家族に正しい、有意義な情報を伝達することが重要だと強調していました。

 最後に、岩田世話人の上司である村上 (あきら) 教授により、強度近視、角膜、網膜、視神経など遺伝子が関与する眼病研究の今日の進歩についての解説がありました。

 今回は例年の会場開催とは異なるウェブでの開催になりました。この方式の参加に 躊躇(ちゅうちょ) する人が多いかもしれないと心配しましたが、参加者は70人以上と例年並みでした。しかも首都圏以外の遠方からも多くの参加があったのは、臨床上、嫌でも避けて通れないテーマだったことと、全国参加が容易なウェブでの開催による成果だっただろうと思いました。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花つばな流しの診療所」「蓮花谷話譚れんげだにわたん」(以上、青志社)などの小説もある。

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