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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

がんもあって、コロナもあって、どうすれば「自分らしく」生きられますか?

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「共存」「心の余裕」「思いやり」の好循環を

 病気そのものではなく、「不安・恐れ」「偏見・差別」に苦しむというのは、コロナだけでなく、がんにも当てはまります。完全に制御することが難しい、得体の知れない相手との共存をはかっていくという点において、がんとコロナは似ています。

 コロナが問題となる前から、がんの患者さんは、同じ問題に直面していたわけです。今は社会全体が重苦しい雰囲気になっていますが、この機会に、一人ひとりが自分の問題として取り組み、社会全体でこの問題を乗り越えることができれば、その先には、様々な病気と自然に共存できるような未来が訪れるはずです。

 がんがあってもなくても、コロナの広がりがどんな程度でも、みんなが「自分らしく生きる」ことを支え合える社会を創っていきたいですね。

 「病気」→「不安・恐れ」→「偏見・差別」→「病気」の悪循環ではなく、「病気との共存」→「心の余裕」→「思いやり・感謝」→「病気との共存」の好循環ができれば、と思っています。

今できること、今日あった楽しいことに目を向けて

 がんとコロナで心が折れそうになっているとおっしゃった患者さんには、次のように答えました。

 「今は、できないこともたくさんあって、社会に 閉塞(へいそく) 感が漂っていますが、それでも、不安一色だった第一波の頃と比べれば、ニュースでは少しずつ明るい話題も出てきています。おそらく、コロナがこの世から消えることはありませんが、人類は、コロナとともに生きていく道を見つけていくはずです。これって、がんの患者さんが、がんがあっても自分らしく生きているのと似ていますね。

 みんなの心の余裕がなくなっていて、つらいこともあるかもしれませんが、こんなときだからこそ、家族や友達とのつながりに感謝しながら、無理せずに頼ってみるといいかもしれません。今できることや、今日あった楽しいことに目を向け、それをまわりの人に話してみるのもいいと思います。もちろん、楽しいことがあれば、僕にも教えてくださいね」

絵日記でつぶやく ささやかな幸せ

 この連載で、8月からイラストを描いてくれている、さかいゆはさんは、私の患者さんで、乳がんとともに生きている30代の女性です。ゆはさんは、診察室ではいつも楽しい雑談をしてくれて、私も癒やされています。このヨミドクターの連載を再開してみたら、と私に提案してくれたのもゆはさんです。

 ゆはさんは、最近、ツイッターで 絵日記 を始めました。日々の生活や通院の中で見つけた、ちょっとした出来事を絵日記でつぶやいています。毎日を大切に過ごし、その中で感じられたささやかな幸せを描いておきたい、と思い立ったということです。がんやコロナがあっても、心の余裕をもって見渡せば、当たり前の日常の中に幸せはたくさん見つけられるし、それを伝えられたら、他の患者さんにも役立つのではないか、と思ったそうです。

 なお、今回のイラストは、ゆはさんのご自宅での食卓を描いたものです。お父さんが猫に食事をあげていて、それを止めようとするお母さんの脇で、ゆはさんがマイペースで食べているという、よくある日常の光景だそうです。「ささやかな幸せ」が伝わってきますね。(高野利実 がん研有明病院乳腺内科部長)

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。

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