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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

がんもあって、コロナもあって、どうすれば「自分らしく」生きられますか?

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がんもあって、コロナもあって、どうすれば「自分らしく」生きられますか?

イラスト さかいゆは

 がんがあっても、「がんとともに、自分らしく生きる」ことは可能だし、それを支えるのが医療の役割だというのが、私の考えです。そんな考え方について、診察室でも語っているわけですが、先日、患者さんから、こんなことを言われました。

 「がんがあっても、今まで通りに生活して、働いて、趣味も楽しんでいい、というのはわかっているんですが、コロナのせいで、それができないんです。がんという病気に押しつぶされそうになりながらもようやく前向きな気持ちになれたところで、今度はコロナです。もう心が折れそうです」

コロナで余裕失った社会 がん患者への配慮を

 コロナは、がんの患者さんにも大きな影響を及ぼしています。がん患者がコロナに感染すると重症化するという話に不安を感じ、世の中がコロナ一色になるとともに日常が制限され、病院では感染対策が優先される中で緊張感が高まっています。

 がんと向き合うのに精いっぱいで、コロナどころではない、という患者さんも多いのですが、コロナで余裕を失った社会は、逆に、コロナと向き合うのに精いっぱいとなり、がんの患者さんへの配慮が薄くなっているようです。病院に通院しているというだけで差別を受けたという話もありました。これでは、ますます、患者さんが孤立してしまいます。

「不安・恐れ」「偏見・差別」を乗り越える

 こんなときだからこそ、必要なのは、「心の余裕」と「思いやり」です。

 日本赤十字社では、「 新型コロナウイルスの3つの顔を知ろう! 」というガイドを公開しています。感染症には、「病気そのもの」のほかに、第2の感染症である「不安・恐れ」、第3の感染症である「偏見・差別」があり、それぞれが「負の連鎖」でつながっていると書かれています。今、世の中に蔓延(まんえん)して、がん患者さんを苦しめているのは、病気そのものよりも、第2、第3の感染症なのかもしれません。

 ワクチンや治療薬の開発で、病気そのものが制御されることを期待しつつ、私たちは、第2、第3の感染症を乗り越える方法を、一人ひとりで、そして、社会全体で考えていく必要があります。コロナを完全に制御するのは難しいとしても、「不安・恐れ」「偏見・差別」を乗り越えることができれば、私たちは、コロナと穏やかに共存できるようになるはずです。それこそが、Withコロナの「新しい日常」なのだと思います。

 「不安・恐れ」「偏見・差別」を乗り越える方法は、日本赤十字社の動画「 ウイルスの次にやってくるもの 」でわかりやすく紹介されています。話題になったので、ご覧になった方も多いと思いますが、まだの方はご覧になることをお勧めします。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。

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