森本昌宏「痛みの医学事典」
医療・健康・介護のコラム
慢性腰痛症、変形性関節症…「痛みを和らげなさい」 脳の命令を助ける薬とは?
SNSがないと夜も日も明けない時代になった。さまざまな情報が瞬時で手に入る、便利な時代になったものである。外来で、患者さんに治療方針を説明するにあたっても助かることが多い。「○○ってのは、抗うつ薬の仲間なのですが……」「はい、知っていますよ」との具合に、である。それどころか、患者さんたちがSNSで調べてきて、「○○が痛みに効くと聞いたのですが」「娘がネットで調べて、私には○○がいいんじゃない?って言うんです」と切り出されることもある。患者さんたちの情報収集能力はすごい! もちろん間違った情報も多いし、曲解もあるのだが……。
一風変わった薬「デュロキセチン」

私の外来では、代表的な鎮痛薬の非ステロイド性抗炎症薬(ロキソプロフェン)や医療用麻薬(オピオイド)を処方することは少ない。読者のみなさんは、「じゃ、どのような痛み止めを処方しているの?」との疑問を持たれるだろう。その答えは「慢性期の痛みには、抗うつ薬や抗てんかん薬などの「鎮痛補助薬」(前回、紹介した)を用いている」となる。
そうした鎮痛補助薬のひとつにデュロキセチン(サインバルタ)がある。デュロキセチンは抗うつ薬の仲間である。
痛みの治療に使用されている抗うつ薬は、大きく分けて、三環系(アミトリプチリンなど)、四環系(セチプチリン)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(パロキセチン)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(デュロキセチン)などがある。そのうち、痛みに対する保険適用が認められているものに、アミトリプチリンとデュロキセチンがある。私も必然的に、この二つを選ぶことが多い。「国際 疼痛 学会」や「日本ペインクリニック学会」は、神経障害性疼痛(神経痛)の治療を行う場合、これら二つの薬が第1選択薬であると推奨している。
デュロキセチンは、一風変わった薬だ。当初から抗うつ薬かつ痛みの治療薬として開発されたのである。わが国では、2010年にうつ病(うつ状態)の薬として発売され、12年には、抗うつ薬としては初めて、痛み(糖尿病性神経障害に伴う疼痛)に対する適応を取得、その後、「線維筋痛症」や「慢性腰痛症」「変形性関節症」による痛みでの使用が可能となったのだ。さらには、がんでの化学療法によって生じた 末梢 神経障害による痛みに対する治療効果も確認されている。
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