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森本昌宏「痛みの医学事典」

医療・健康・介護のコラム

「痛みの治療なのに抗うつ薬を処方された!」と駆け込んできた患者 「鎮痛補助薬」の使い方

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 30年近く前のことになる。「帯状 疱疹(ほうしん) 後神経痛」に悩まされているNさん(78歳、女性)が、外来に来られた。以前から抗うつ薬のアミトリプチリン(トリプタノール)を使用していたが、当時、患者さんが処方箋をもらって近隣の調剤薬局で薬を受け取る「院外処方」が一般的になってきており、Nさんについてもこの日、院外処方に切り替えた。

しばらくして、Nさんが血相を変えて外来に戻ってこられた。「私はうつ病じゃないんです! 痛みを治してほしくて通院していたのに、うつ病の薬を飲まされていたのですか」と。調剤薬局で薬を受け取る際に、薬剤師さんから「うつ病の薬ですよ」との説明を受けたというのだ。

「痛みの治療なのに抗うつ薬を処方された!」と駆け込んできた患者 「鎮痛補助薬」を正しく使える医師はエキスパートです

 「いやいや、最初に処方した時に、きちんと説明したんだけどなあ」と考えながらも、必死でなだめたことが思い出される。今や帯状疱疹後神経痛に対する薬物治療の第1選択は、抗うつ薬だと言っても過言ではないが、その頃、鎮痛を補助する薬として用い始められた時期とあれば、さもありなん。以前の院内処方なら、このような行き違いは起こらなかったのになあ、隔世の感あり、である。

 抗てんかん薬でも同様のことがあった。「私はてんかんだったのですか!」との具合に、である。顔面に刺すような痛みを引き起こす「典型的 三叉(さんさ) 神経痛」に対しては、今もカルバマゼピン(テグレトール)が第1選択薬として用いられているが、このカルバマゼピンは本来、抗てんかん薬として開発された薬なのである。

本来の作用は鎮痛ではないが

  このように、本来の作用が「鎮痛」ではないにもかかわらず、ある病気に対して鎮痛効果をもたらす薬が存在する。これらを「鎮痛補助薬」と呼ぶ。「それ自身には鎮痛作用がないものの、他の薬による鎮痛効果の増強、特殊な痛みの治療、副作用を軽くすることなどを目的として用いられる薬」を指す。

 ペインクリニックでは、さまざまな痛みに対し、これらの鎮痛補助薬が広く用いられてきた。私の施設では、鎮痛補助薬を処方する割合が、本来の鎮痛薬よりもはるかに多い。鎮痛薬と聞いて真っ先に頭に浮かぶ非ステロイド性抗炎症薬(ロキソプロフェンなど)や医療用麻薬(オピオイド)を処方することはむしろ少ない。急性期の痛み、たとえば帯状疱疹で水疱がまだ残っている時期であれば、ロキソプロフェンやトラマドール(医療用麻薬のなかでは依存性が低い)を使用することがあるものの、処方は1か月までにとどめている。帯状疱疹発症後1か月以上を経て、神経痛としての様相を呈し始めた時期になると、これらの鎮痛薬によって良い効果を得ることは期待できないし、漫然と処方していると、腎臓の機能障害や薬物依存など多くの問題を生じるからだ。

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森本 昌宏(もりもと・まさひろ)

 大阪なんばクリニック本部長・痛みの治療センター長。
 1989年、大阪医科大学大学院修了。医学博士。同大学講師などを経て、2010年、近畿大学医学部麻酔科教授。19年4月から現職。日本ペインクリニック学会専門医、名誉会員。日本東洋医学会指導医。著書に『ペインクリニックと東洋医学』『痛いところに手が届く本』ほか多数。現在、大阪市北区の祐斎堂森本クリニックでも診療中。

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