女優 比企理恵さん
一病息災
[女優 比企理恵さん]パニック障害(5)心の声を聞くって大切
デビュー以来、休みなく走り続けてきた。舞台の上では、名だたる先輩俳優に囲まれ、四六時中、気が張っていた。
どんなに体調が悪くても、休むことはもちろん、遅刻も許されない。心の中は、いつも無意識の緊張でいっぱいに満たされていた。
周囲からは、おおらかな性格だと言われてきた。だが、長野県の戸隠神社で、きりりとした 静謐 な空気に包まれたとき、自分の心と体が発していた悲鳴が聞こえてきた。
そして、「死にたい」とさえ考えた自分が、生き続けていく上で、何が大切なのかにも気づいた。
もう、無理はしない――。
もちろん、薬も効かなかった「神経の病気」が、神社の御利益で治ったわけではないだろう。だが、長野から東京に戻ってからは、パニックの発作が明らかに減った。まれにフラッシュバックのように起きることがあったが、徐々にそれも消えていった。
それ以降、毎年、戸隠神社に出かけるだけでなく、日本各地の神社巡りも始めた。無趣味の仕事人間だった自分の日常に、潤いと楽しさが加わった。
「苦しみから抜け出せた私は、運がよかっただけかもしれません。でも、自分の心に、聞き耳を立てることは、大切なんだと思います。誰にとっても、ね」
(文・染谷一、写真・園田寛志郎)
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女優 比企理恵 さん(54)
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