訪問診療にできること~最期まで人生を楽しく生き切る~ 佐々木淳
介護・シニア
新型コロナで夫のデイサービス減少……老夫婦の生活は崩壊した
夫は入院期間中ベッドに固定され完全な寝たきり、妻はうつ病に
それから2週間、茂雄さんの肺炎が改善したので退院を進めたいと病院から連絡がありました。病棟で久しぶりにお会いした茂雄さんは、すっかり変わり果てた状態になっていました。病院は新型コロナの感染防止のため、家族の面会が禁止されていました。そんな中、茂雄さんは毎日家に帰るといっては点滴を抜こうとしていたそうです。茂雄さんの両手と胴体は2週間の間、治療を安全に行うために、ベッドに固定されていたのでした。まひしていなかった右側の手足も動かすことができず、完全な寝たきりの状態で、呼びかけてもうつろな表情でこちらを見て、すぐに目を閉じてしまいます。
一方の奥さんは、主治医からうつ病と診断され、新たに治療が開始されていました。自宅でご主人の介護ができる状態ではないという主治医の意見を受けて、茂雄さんは老健施設に入所し、1か月間、リハビリをすることになりました。この1か月で、茂雄さんが再び元気になり、奥さんのうつ病が落ち着けば、自宅に帰れるはずでした。しかし、実際には茂雄さんは寝たきりのまま、老健施設から特別養護老人ホームに移され、そこで残りの人生を送ることになりました。奥さんもうつ病のために一人での生活は難しいと判断され、妹さんと一緒に暮らすために、来月、別の街に転居することになりました。
人との交流の減少で心身の機能が低下する
無症状や軽症が多いといわれる新型コロナウイルス感染症ですが、日本では70歳以上の死亡率は25%を超えています。特に高齢者にとっては大変な脅威であることは間違いありません。感染のリスクを減らすためには、3密を避けること、人との接触を減らすことが求められるようになっています。
しかし、人との交流の減少は、私たちの健康に著しい悪影響を及ぼします。特に高齢者の場合、フレイル(心身の機能の 脆弱 性)のリスクが増加し、たとえば転倒・骨折、認知機能の低下、うつ病などが増えることがわかっています。在宅医療の現場でも、人との交流や外出機会の減少によると思われる高齢者の心身の機能低下や生活機能・社会機能の低下に直面することが増えてきています。
首都圏のある自治体で行われた研究によると、運動、趣味、ボランティアなどに週1回以上取り組んでいる高齢者と比較して、フレイルのリスクは、運動をしないと2.6倍に、趣味などの文化活動をしないと2.8倍に、地域活動(ボランティアなど)をしないと3.1倍に、いずれもしていない高齢者は16倍にもなることがわかっています。
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