【1】ギャンブルの沼 4 共依存の家族が陥るワナ
シリーズ「依存症ニッポン」
共依存の家族が陥るワナ(下) 「愛情ではない。夫への執着です」
不思議なのは、これだけ夫がギャンブルで借金を繰り返しても、三行半を突き付けるという選択肢が、それまでK子さんの頭の中に一片も浮かばなかったことだ。
ご主人を愛しているから――?
そう尋ねると、K子さんは「愛情ではないと思います。執着です」と即答し、一呼吸おいて、こう続けた。
「私は共依存なんです。夫だけでなく、私も壊れていた。ギャンブルによる借金を繰り返す夫と同じく、私も彼のしりぬぐいをやめられない。結局、私自身の問題でもあったのです。自尊心が低く、いつも捨てられるのではないかという不安を持っている。誰かに頼らないではいられない」

共依存の性……
数年後、悪い予感は的中した。
子どもの手がかからなくなってきたため、K子さんはある独立行政法人で、契約職員として働くようになっていた。再び、夫がスリップし、ギャンブルに手を染めたのは、その直後だった。この時も、K子さんは怒りをコントロールしながら、あちこちからお金をかき集め、なんとか返済をしたものの、さすがに忍耐には限界が近づいていた。ところが、そのときにK子さんが取った手段は、信じがたいものだった。
毎月、決まった額を夫に渡す。それで、すべてをやりくりしてもらう。その中から毎月6万円程度、これまでに家計で肩代わりしてきた借金分を返済してもらう。そして、金輪際、借金の肩代わりはしないと宣言する――。
子どものお小遣いの前借りではないのだから、とも感じるが、問題はそこではい。金額だった。毎月、夫に渡す金額は月16万円だったという。
言い換えれば、毎月10万円の小遣いを渡すことになっただけ。甘い、というよりも、 傍 からは理解不能な対処だろう。
好意的に解釈すれば、手持ちのお金から家計に戻すことで、夫に贖罪の自覚を持たせる意義はあるかもしれない。それにしても、ギャンブルでの借金癖のある相手に、毎月自由に使える10万円を渡すのは、「消えかかってはいるが、まだくすぶっている 熾火 」に定期的に薪をくべるような話だ。
これが共依存の 性 、か。
初めての別居生活に
さすがに反省をしたのか、夫はその後、5、6年の間は、毎月6万円の返済を続けた。
だが、結果的に、夫は再びスリップした。パチンコに手を出したのは98年のことだった。ギャンブル依存者にとって、月10万円の可処分所得が、さらなる借金を呼び込む結果になることは自明の理だった。
しかも、このときの夫は、同時に「うつ」を発症し、会社を休職するという「負の加算」まで重なった。
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