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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

新型コロナ ファクターXは存在するのか

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変異で感染力が増した説?

新型コロナ ファクターXは存在するのか

 D614Gという謎めいた記号が注目されています。新型コロナウイルスの「感染力が増大」している、その原因がD614Gだというのです。

 D614Gというのは、ウイルス遺伝子の突然変異で、遺伝子が作るたんぱく質のアミノ酸配列に起きる変化のことを指します。ウイルスのSたんぱく質を構成する614番目のアミノ酸がアスパラギン酸からグリシンに変化するのです。アスパラギン酸というアミノ酸の略称がD、グリシンの略称がGで、DからGに変わりましたよってことです。グリシンがGなのはいいとして、アスパラギン酸がDなのは納得いかへん、と思ったあなた。ぼくも医学生のとき、同じことを思いました(ま、「ア」から始まるアミノ酸が多いんですよ……)。

 基礎実験レベルでは、このような突然変異があるとウイルスの感染力が増すことが示唆されています。雑誌AERA8月31日号では、日本の「第二波」で「第一波」よりも感染者数が多いのは、ウイルスの突然変異のためではないか、と主張する記事が載っていました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/8c49904cc341d5d46fd4a0c034e50bf1756f0967

感染者数の増加は検査数の増加が原因

 ただ、ぼくは、この話は、眉唾だと思っています。

 もちろん、ウイルスの突然変異で感染する能力が変化する可能性は否定しません。が、リアルワールドでは、そのインパクトは非常に小さなものでしょう。そして、「感染力」……他人に感染させる事象の多い少ない……は、むしろウイルスよりも、人の側に要因が存在する可能性のほうがずっと高いのです。すなわち、ソーシャルディスタンスの確保、マスクやせきエチケット、発症してからの受診や診断、隔離といった、人々の営みです。「第二波」のほうが「第一波」よりも感染者数が多いのは当然です。「第一波」では意図的にPCR検査数を抑えていたのですが、「第二波」ではずっとPCR検査に積極的だからです。たくさん検査するから、たくさん見つかる。ただそれだけの話です。

 人類はこれまで、たくさんのウイルス感染症と取っ組み合ってきました。エイズ、肝炎、脳炎、インフルエンザ……エトセトラ、エトセトラ。ウイルスは、しばしば遺伝子の変化……突然変異を起こします。が、その「突然変異」がウイルスのキャラを激変させ、大きく感染力を変えることはめったにありません。ましてや、新規のウイルスである新型コロナウイルスが数か月の間に劇的なキャラ変をするのは、あまり起きそうにないシナリオです。 

 基礎医学目線の実験データは参考にはなりますが、そのまま臨床医学ワールドに当てはめてはいけない。臨床医学の鉄則です。領域の鉄則を学ばずに、にわか勉強でそれっぽい話題に飛びつくのはご法度です。失敗の元ですよ。

 というわけで、新型コロナウイルスは「感染力」が増してはいないし、少なくともリアルワールドでの感染対策を根本から変えるほど感染力は強くなってはいません。

 同様に、「ウイルスが強毒化している」とか「弱毒化している」といううわさも聞きますが、これもガセネタと考えてよいと思います。詳しいことは、忽那賢志先生が解説しているので、ここでは屋上屋を架することはいたしません。

https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200726-00189953/

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iwaken_500

岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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1件 のコメント

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科学的意見以外の要素やその原因を考慮する

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

本文のままですが、検査技術の限界とか検査行為による感染リスクの問題、日本の文化による病名の扱いなどを考えれば、実際、コロナの感染数や死者数はもっ...

本文のままですが、検査技術の限界とか検査行為による感染リスクの問題、日本の文化による病名の扱いなどを考えれば、実際、コロナの感染数や死者数はもっと多い可能性もあります。
そして、新型コロナや併存するかもしれない病因が何をしたかは完全にはわかっていません。
ファクターXはあるのかもしれないが、ないかもしれないし、希望的観測が前向き過ぎることは危険ではないかと思います。

これも先日の岩田先生の文章のままですが、正体が全く不明だった頃に比べて、もう少し自由度を上げていいですよが適切ですね。
問題は主観や地域の多様性も含めて何が適切かという答えがない事なのかもしれません。
そして、経済的側面だけでなく特に便利すぎる都会の人間にとって自粛ムードや自粛行為の延長が精神的に来ている部分があるのでしょう。
山中先生の本意はわかりませんが、周囲の人の気持ちに配慮し過ぎたのかもしれないですね。

とりあえず言えることは、感染症のかじ取りも自動車よろしくハンドルと遊びとアクセルとブレーキが大事だという事でしょう。
この時に、専門家や政府の目線だけでなく、一般人やパニックや疲労を起こした人の目線や感情の理解も大事になると思います。
同じ病名でも患者の重症度や理解度、そして急性期、亜急性期、慢性期のフェーズで治療方針や説明方法が変わるのにも似ています。

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