ココロブルーに効く話 小山文彦
医療・健康・介護のコラム
【Track4】コロナ禍のうつを抜けて――ある高齢者のうつ病エピソード――
生きがいの場所だった道場が閉鎖に
高齢者が新型コロナにかかった場合は重症化しやすいとか、死亡することもあるなどの報道を多く目にします。テレビをつけても、番組の多くがコロナ関連ばかり。ソウヘイさんは、だんだんテレビを見るのも嫌になってきました。
そんな折、ソウヘイさんをさらに落胆させる知らせが、役所から送られてきました。3月中旬から、道場は一旦閉鎖、集団練習は中止するとのことでした。
「なにもかも、コロナ、コロナか……」
その晩から、よく眠れなくなりました。横になってもなかなか寝つけず、ようやく寝つけても夜中に何度も目が覚めてしまいます。
次第に気分がふさぎ、食欲まで落ちてきました。
眠れない、食べられない、そのせいか体がだるく、頭も重い感じがします。それでも、「たるんではいけない」と自分を戒めるように、庭に出ては、竹刀の素振りを続けていました。
電話で言葉がうまく出なくなって
3月下旬、入院していた友人から、ソウヘイさんに電話がかかってきました。あの日かなわなかった面会への謝意と、無事退院できたことの知らせでした。しかし、ソウヘイさんは、自分でも不思議なくらい電話での受け答えがうまくできません。
友人に対して、ふさわしい言葉が浮かばないのです。そればかりか、話をしているのが正直なところ面倒に感じるほどでした。
数分間の短い通話が終わると、「せっかく電話をくれたのに……」「面会禁止なのに訪ねた自分が悪かった」と、ソウヘイさんは、わびるように独り言を繰り返していたそうです。
それを見て心配になった妻のヤスヨさんに連れられて、かかりつけの内科医A先生に相談に出向きました。睡眠障害に効果がある、抗不安薬エチゾラムの処方を受け、飲んでみた結果、ソウヘイさんの寝つきは少し改善し、数時間は眠れるようになりました。
しかし、まだまだ熟睡にはほど遠く、食欲も戻りません。体のだるさも続いたため、庭での素振りもやめてしまっていました。再びA先生を訪れ、今度は頭部MRIなど、あらゆる検査を受けましたが、異常は見つかりませんでした。
ソウヘイさんが、A先生からの紹介状を携えて、私のメンタルヘルス外来を訪れたのは4月下旬のことでした。
診察室では、「なにもやる気になりません。頭の中に……重い石が入っているみたいです」と訴えます。じっくりと話をお聞きしたところ、「コロナ禍」における様々な「喪失感」などがきっかけとなって、意欲の低下、悲観的な思考、興味・関心の低下、不眠の持続などがあったため、うつ病と考えられました。
そこで、うつ病の治療薬ミルタザピンと睡眠改善薬クアゼパムを少量から処方しました。
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